原油価格が「1バレル75ドル超」になる理由 今は膠着状態だが、年央以降に上昇も?

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膠着状態と言いつつも、目先の原油相場がそれなりに底堅く推移している背景には、将来における生産コストの上昇懸念が背景にあるのではないかと考えられる。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、世界の石油・ガスの上流部門への投資は、2015年に前年比25%減、2016年に同26%減少している。2017年は増加に転じたとはいえ小幅増にとどまり、今年も同様に小幅増にとどまる見通しだ。

一般的に石油生産量は投資をしないと減少する。2010年以降の産油量の自然減は日量300万バレル程度となっている。つまり、現在稼働している油田への投資あるいは新規の投資により生産量を維持しないかぎり、世界の産油量は自然に減少する。

この分を賄うために、投資や増産が必要になるわけだ。その投資部分が増えていないことは、将来における増産への懸念につながることになる。市場関係者には、この点に関する着眼がないように思われる。

米国の主要シェールオイル産地の生産力は低下へ

着眼点という意味では、米国の将来的な産油量見通しも甘い可能性がある。現在の見通しでは、米国内の産油量は2020年ごろまで順調に増加する。だが、それ以降は伸びが急速に鈍化するとされる。米国内の主要シェールオイル産地の生産能力は徐々に低下していく見通しだ。

米エネルギー情報局(EIA)が発表する月次の生産推計値をベースに年間の生産増加率を計算し、可採埋蔵量が増加しないと仮定すると、「あと十数年程度で生産がピークを迎える可能性がある」との試算も成り立つ。

こうした、将来的な増産ペースの鈍化は、まだ市場には織り込まれていないだろう。もちろん、原油相場が上昇すれば、新規開発が進むことで可採年数および埋蔵量が増える可能性はゼロではない。だが、いずれにしてもコストは上昇する。これは、シェールオイル企業への調査でも明らかになっており、将来の原油相場の上昇を意味するだろう。

一方で、2015年から16年に掛けての原油相場の下落に伴い、陸上および海上の油田での開発が抑制されている可能性が高い。これらの地域の新規開発を促す生産コストは1バレル=60ドルでは済まない。今後、新規で開発に着手しようとすれば、70ドル超の水準は必須だ。

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