とはいえ、こんな調子ではまともに仕事をしている経済スタッフはやっていられない。国家経済会議担当のゲイリー・コーン議長がとうとう辞表を提出した。もともと不満を溜めていた上に、懸案の減税法案は昨年末に成立させたことだし、もう十分に義理は果たしたと考えたのであろう。かくして数少ない「大人」のキーパーソンが政権を去り、代わりにピーター・ナヴァロ教授のような保護貿易論者がのさばることとあいなった。
しかるにトランプ大統領は、本気で全面的な貿易戦争を仕掛けたわけではなかった。3月8日にはカナダとメキシコを適用除外にすると発表。代わりにNAFTA再交渉での見返りを要求した。追加関税を正式に発動するのは3月23日からで、日本など他の国は「今後の協議次第」であるという。「そっちが色を付けてくれれば勘弁してやるぜ」という交渉術で、「な~んだ、いつものプロレス流か」と周囲を拍子抜けさせた。
次々とさく裂した「トランプ爆弾」
ところが同日夜、今度は別の爆弾がさく裂した。この日、ホワイトハウスを訪れた韓国の鄭義溶大統領府国家安保室長らから、先般の南北会談の結果について説明を受けた際に、トランプ大統領は「金正恩朝鮮労働党委員長と5月までに会う」と通告したのである。同盟国への相談はもちろんのこと、国務省など専門家の意見もろくに聞いてはいない。まるで中小企業のオーナー社長のような独断専行、電光石火の即断即決なのである。
そして日曜日の3月11日、トランプ大統領は応援のためにペンシルベニア州の補欠選挙区に入っている。ところが共和党のリック・サコーン候補の勢いは今ひとつ。むしろ民主党の若手イケメンで元海兵隊員のコナー・ラム候補の方が良さげに見える。嫌な予感がしたのであろう。選挙戦当日の3月13日朝、またまた新たな爆弾をさく裂させた。
ツイッターで、「レックス・ティラーソン国務長官の解任」をぶち上げたのがそれだ。気の毒なことに、アフリカ出張から戻ってきたティラーソン長官は、当日の昼頃になって「今までご苦労さん」の電話を受けたという。以前から大統領との折り合いが悪く、「いつ辞めるのか」との風聞は絶えなかったものの、閣僚最上位である国務長官がこんな風に”You’re fired.”を告げられるというのは前代未聞である。
それもおそらくは、「補欠選挙敗北」が翌日のトップ見出しにならぬように、タイミングを計った人事なのであろう。ひどい、ひど過ぎるぞ。同日午後に行われたティラーソン氏の退任声明には、後任のマイケル・ポンペオCIA長官やジョン・ケリー首席補佐官への謝辞はあったが、トランプ大統領に対する言及は一切なかった。
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