北朝鮮が核ミサイル放棄?それはありえない 交渉では細部にこそ悪魔が潜んでいる
金委員長は今、父親の金正日総書記が2000年に展開した外交政策を手本にしていると筆者はみている。この年の6月、金正日総書記は太陽政策を掲げる韓国の金大中大統領と史上初の南北首脳会談を開催。この実現のため、金大中政権は北朝鮮に約5億ドルを支払っていたことが、のちに分かった。
北朝鮮は南北改善を図ると、アメリカとの関係改善も一気に推進した。同年10月には趙明禄・国防委員会第1副委員長が訪米。当時のビル・クリントン大統領と会談して敵対関係を終結させる「共同コミュニケ」を採択した。
この訪米時、趙明禄氏はクリントン大統領に訪朝を要請したが、クリントン大統領は固辞。代わりに、マデレーン・オルブライト国務長官を現職閣僚として初めて平壌に派遣した。
ブッシュ政権下で米朝関係は再び悪化
その後クリントン大統領自身の訪朝も検討されていたが、直後の大統領選挙で、クリントン大統領と比べて対北強硬派のジョージ・W・ブッシュ大統領が勝利したことで頓挫した。ブッシュ政権下では、2002年に北朝鮮のウラン濃縮計画が問題化し、米朝関係は再び悪化した。
金委員長は今回、妹の金与正氏を韓国に派遣。さらに韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長らを事実上、米国への自らのメッセンジャーとして活用することにより、対米協議への道を開いた。
この2000年の米朝接近の教訓は北朝鮮同様、本来はトランプ政権も学んでいるはずだ。オルブライト氏が2003年に出版した回顧録『マダム・セクレタリー』によると、クリントン政権は当時、米朝首脳会談の前提条件として、北朝鮮が保有する全ミサイルの製造や発射実験、配備、海外への輸出をすべて止めるように要求した。
さらに、核査察の受け入れや現場での立ち入り検査、核廃棄プロセスの検証作業の確立なども求めたが、国家主権の侵害にかかわる事柄については金正日総書記が「神経質で物分かりがよくない」ことが分かり、結局、合意できずに終わった。
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