北朝鮮が核ミサイル放棄?それはありえない 交渉では細部にこそ悪魔が潜んでいる
さらに、4回目の核実験を強行した2日後の2016年1月8日には、北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)が、イラクのサダム・フセイン政権とリビアのカダフィ政権を引き合いに出し、核開発計画を自発的に放棄したために両国の政権が崩壊したと指摘。北朝鮮に核兵器放棄を求めることは「空が落ちるのを見たいと望む」のと同じくらい無意味だと述べている。
そもそも金委員長はなぜこのタイミングで米国との関係改善に舵を切ってきたのか。1つ目の理由としては、既に広く指摘されているように、核ミサイル開発を巡る国際社会の経済制裁がじわじわと効果を上げていることがある。経済的に孤立を深めている中、北朝鮮に融和的な韓国の文在寅政権を利用して苦境を脱しようとしている。北朝鮮の貿易額の約9割を占める中国との貿易の総額は今年1月、前年同月比で半減した。
ただ、オバマ前政権は、核開発を進めるイランを交渉のテーブルに戻させるために、フランス銀行最大手BNPパリバに約9100億円の罰金を科すほど強力な制裁を加えたが、それでも5年かかった。北朝鮮制裁の効果はこれから徐々にもっと出てくるはずだ。
北朝鮮は「抑止力」に自信を持っている
2つ目の理由として、北朝鮮はアメリカ相手にすでに十分な抑止力を確保し、自信を持ったことが背景にあるとみられる。昨年ICBMの発射実験を3回強行し、水爆実験とみられる核実験にも成功した。KCNAは昨年11月29日、新型のICBMである「火星15」の発射成功を受け、「米国本土全域を攻撃できる」と主張、「核武力完成」を宣言した。アメリカ本土を攻撃できるICBMが存在することをテコにして、アメリカとの交渉に舵を切ってきたとみられる。
確かに、専門家の間では、北朝鮮はいまだICBMの実戦配備には欠かせない大気圏再突入技術等が確立しておらず、実戦配備の段階に至っていないとの見方が優勢だ。しかし、北朝鮮にしてみれば、冷戦時代にソ連が米国を相手に確保した水準の核ミサイル抑止力は必要ない。国力からしてそれを実現することは到底無理である。そもそも、国際的な経済制裁が強化されるなか、米国とのさらなる軍拡競争で生じる社会経済上のコストに北朝鮮が耐えられるはずもない。
しかし、金委員長は米本土を核攻撃できるICBMの技術的な最終完成よりも前に、今年の新年の辞で述べたように「人民経済の自立性と主体性を強化するのに総力を集中」することに重点を移す政治的な決断をした可能性が高い。と同時に、平昌冬季五輪を駆け引きの材料にして、南北対話、さらには米朝協議を新年から実践に移す準備を昨年中から事前に十分進めていたとみられる。
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