暴走列車「トランプ号」で米国経済は自損だ

トランプ輸入制限の米国経済への影響を試算

商務省が公表している産業連関表を使うと、新たな関税が課せられた場合の国内財価格への影響を計算できる。上述したように、対象品目はHSコード2ケタ分類の一部(6ケタまたは4ケタで指定)であり、金額ベースで測った割合は鉄鋼で74.0%、鉄鋼製品で23.5%、アルミニウムおよびその製品で75.7%である。したがって、新たな関税によって米国企業が直面する輸入価格の上昇率(輸入価格ショック)は、それぞれ18.5%(25%×74.0%)、約5.9%(25%×23.5%)、約7.6%(10%×75.7%)となる。

産業連関表を使った輸入価格ショックの国内価格波及分析では、385品目について国内価格変化率を得ることができる。その結果を見ると、「鉄鋼」や「アルミニウム製品」の国内価格はもちろんのこと、「パイプライン輸送」の国内価格が2番目に高い上昇率となるなど、幅広い品目で価格上昇が起きるのが確認できる。

追加関税は、極めて広範囲にわたって影響を及ぼすだけでなく、その経済的コストも無視できない大きさである。多くの米国企業にとって、トランプ政権の措置は中間投入コストの上昇となって経営を圧迫する。産業連関表の財別中間投入額に、本稿で得られた財別国内価格上昇率を乗じて得られる「企業負担額」は、米国企業が生み出す付加価値全体の0.5%に達する。

産業連関表を用いた分析には時間的概念がないため、実際にどのようなスピードで付加価値額の0.5%という巨大な「企業負担額」が生じるのか、つまり本措置が景気減速や景気後退などにつながるのかどうか、については議論することができない。とはいえ、米国企業部門が2017年に生み出した付加価値額は15兆ドルに上ることを踏まえると、企業負担は750億ドルとなる。米国内の鉄鋼・アルミ業界の保護と90億ドルの関税収入を得るために行う保護主義的措置は、トランプ政権および米国経済にとって極めて高くつく。

「争いが好き」な大統領で、自由貿易の危機に

トランプ政権の保護主義的動きに対しては、国内外から強い反発が見られる。国内では下院共和党議員100人が連名でトランプ大統領に書簡を送り、見直しを求めるなどの動きに発展している。

国外では、最大の対米鉄鋼輸出国であるカナダが「(いかなる関税も)絶対に受け入れられない」(外相発言)としており、EUは「われわれの利益を守るため、断固とした相応の対抗措置を取る」(ユンケル欧州委員長)との警告を発している。ハーレーダビッドソンのバイクやバーボンウイスキー、リーバイスのジーンズなどに報復関税をかける用意があるという。また報道によれば、WTOの非公式会合(3月5日)で、中国を中心とする11カ国・地域が「多角的貿易システムを傷つける」などと懸念を表明した。

厄介なのはWTOルールも米国を止められない可能性がある点である。それは米国がGATT第21条(安全保障例外)の援用を主張した場合である。同条には、その援用に条件がないこと、援用による措置を決めるのは援用国自身(今回の場合は米国)であること、という2つの特徴があり、他国が口を挟む余地は限られている。1985年に当時のレーガン政権が対ニカラグア貿易を全面禁止した際も、米国は同条の援用を主張して勝利したといわれている。

安全保障に関する国家主権と貿易制限措置のバランスは、各国の誠実さのみが頼りと言っても過言ではない。しかしトランプ政権に誠実さを期待するのは難しい。とりわけ深刻なのは、経済顧問トップで自由貿易主義派のコーンNEC(米国家経済会議)委員長が去ったことだ。トランプ大統領はコーン氏が辞任した同じ日に、こう述べている。「私は争いが好きなんだ」。

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