米鉄鋼輸入制限で得するのは中国ではないか

トランプ大統領の理論は破綻している

米国が保護主義へ向かう中、中国が貿易で新たな存在感を示す可能性も(写真:Damir Sagolj/ロイター)

ドナルド・トランプ米大統領の貿易に関する強硬な姿勢が世界をいらだたせている。署名1つで同大統領は、国際貿易体制を覆し、生活必需品の価格を上げ、米国ビジネスの競争力をそぎ、米国と欧州の同盟に亀裂を入れ、貿易障壁を利用した新たな国家安全保障を構築するチャンスを中国に与えてしまうかもしれないのだ。

トランプ大統領はまた、貿易に関する健全な取り組みを行える絶好の機会を逃してしまうかもしれない。

貿易戦争は誰の利益にもならない

トランプ大統領の計画は先週、市場に衝撃を与えた。自動車のエンジンから高層ビル、ビール缶に至るまですべてに使われる鉄鋼とアルミの関税を引き上げるとブチ上げたのだ。製造資材の関税を引き上げれば、結果として消費者がより高いコストを払うことになるというのは経済の基本だ。トランプ大統領の政策は、米国人の仕事を維持するよりも、奪うおそれのほうがはるかに大きいと経済専門家たちも指摘している。

世界のアナリストたちは、事態を注意深く見守っている。世界貿易機関(WTO)のロベルト・アゼベド事務局長は「ほかの国々の最初の反応を見るかぎり、問題がエスカレートしていく可能性は疑う余地もない。貿易戦争など誰も望まない。WTOは状況を注意深く見守る」と述べている。

貿易戦争は誰の利益にもならない。最後に起きた貿易戦争を思い出せる人は少ないかもしれないが、話によれば、それが世界大恐慌の影響を悪化させ、政治的過激思想を生み出し、第二次世界大戦へと導いた。

発端となったのは、同盟国の警告にもかかわらず、輸入税を引き上げれば米国ビジネスを保護し、貿易赤字を覆すことができるとの口実で、1930年に議会を通過したスムート・ホーリー法であった。こうした新たな課税は、米国の貿易相手国に激しい反応を引き起こした。被害は甚大で急速だった。1929年から1933年にかけて、米国の輸入は66%、輸出は61%落ち込んだ。労働者は職を失い、農家は取引先を失い、家財道具は高騰した。

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