サンテレビがタイガース中継をしまくるワケ 全国各地に大型中継車を派遣

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大型中継車を出していない球場には基本的に現地の制作会社に頼み中継車を借りている。実況、解説やディレクター、技術スタッフは神戸から派遣している。中継車で番組に仕上げ、通信回線で神戸の本社へ送り、電波に乗せる。天候などで交通機関が乱れ、中継車がたどりつけず、やむなく現地の制作会社に中継車の出動を依頼するなど、綱渡りになることもある。

一方、中継車を出していないのは東京ドーム、神宮、札幌ドーム、楽天生命パーク宮城、ZOZOマリン、メットライフドームの6カ所。札幌ドームと楽天生命パーク宮城は、地元の制作会社に小型の中継車を出してもらっている。パ・リーグ球団は球団制作の基本映像に、サンテレビ独自の音声と映像をミックスするだけなので、小型中継車で足りる。

メットライフドームとZOZOマリンは、それぞれ同じ独立系のテレビ埼玉と千葉テレビから番組販売を受けて放送しているが、東京ドームは日本テレビが放映権を独占しており、「過去に東京ドーム開催の巨人・阪神戦を中継したことは一度もない」(浮田プロデューサー)という。

神宮に中継車を出さない理由は東京ドームとはかなり異なる。神宮は学生野球の聖地であり、プロ野球の開催が年間70試合前後であるのに対し、学生野球は400試合近く行われている。このため、基本的に学生野球ファーストなのだ。

神宮では日中に大学野球の試合をやり、入れ替わりでプロ野球の試合を開催している。大学野球終了からプロの試合開始までの時間が極端に短いため、中継車は朝一番に入り、カメラのセットも大学野球が始まる前までに完了させ、大学野球をやっている最中はカメラが見えてもいけないので、カバーをかぶせておく。

放送ブースも大学野球をやっている間は使っているので、必要な機材をセットできるのは終了後。すべてが綱渡りなのだ。しかもゲームが終了すると、敷地内からすべての車両は追い出される。ナイター中継が終わったあと、中継車を神宮の駐車スペースに置いたまま、スタッフがホテルに宿泊して翌日運転して帰るということができない。

このため、やむなく東京の制作会社に頼んで中継車とオペレーションスタッフを出してもらっているのだ。

甲子園は、かつて閑古鳥が鳴いていた

ところで、みなさんは、関西出身者から「関西では昔はどのチャンネルを回してもタイガース戦を中継していた」という話を聞かされたことがないだろうか。筆者はまったく別の2人の関西出身者から同じ話を聞かされているのだが、どうやら筆者は担がれたらしい。

しかし、2局並行での放送は1980年代後半から1990年代初頭にかけては頻繁に実施されていたそうで、「2局合計で視聴率が30%を超えることもあった」(浮田プロデューサー)という。

近年は10%に乗るかどうかという水準に落ちているらしいが、今もタイガースは球界屈指の人気球団だ。だが、1970年代の甲子園球場は、巨人戦以外は1万人も集まらない、閑古鳥が鳴く球場だったらしい。江夏豊投手がノーヒットノーランを達成し、サヨナラ本塁打を放った1973年8月30日の中日戦の入場者数はわずか9000人だった。

人気は長期的かつ継続的な露出があってこそ。サンテレビが今日のタイガース人気に大きく貢献していることは間違いないだろう。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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