イギリスが19~20世紀に大繁栄した真の理由 要因は産業革命ではなく「物流」にあった

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イギリスは1660年の王政復古以降、貿易量――とりわけヨーロッパ外世界との貿易量――を大きく伸ばした。このことは「商業革命」と呼ばれている。この商業革命の過程で、イギリスの貿易では、オランダ船ではなく、イギリス船がどんどん使われるようになった。その結果、やがてイギリス以外の貿易についても、イギリス船が使われるようになっていった。イギリスが覇権を握ることができたのは、そのためであった。

世界の物流を支配する国家へ

イギリスは、大西洋貿易のみならず、ヨーロッパ内部の貿易でも、オランダ船の排除に成功していく。ほかの国々と異なりイギリスは、大西洋帝国とヨーロッパ内部の貿易圏で、国家が貿易活動そのものを管理するシステムの構築に成功したのである。これこそがイギリスの独自性であった。

事実、イギリス以外の国々――フランス、スペイン、ポルトガルなど――は、大西洋貿易においては自国船を使ったとしても、北海とバルト海地方との貿易においては、オランダ船を使用する傾向が強かった。

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イギリス船を使うことで、外国人、なかでもオランダ人に支払う輸送料が低減し、国際収支の改善に大いに役立った。近世のイングランド、さらにイギリスは、保護貿易というより、むしろ「保護海運業政策」を特徴とした。この政策により、イギリスは他国との物流においてさえ、支配権を握ることを目指したのだ。

20世紀初頭には、トン数に換算して、世界の船舶の約半分がイギリス船であった。イギリス船は、世界中の商品を輸送していた。

現在の研究では、フランス革命の最中の18世紀末に、イギリスはオランダを抜き、ヨーロッパ最大の海運国家になったと考えられている。それは、19世紀の帝国主義時代において、イギリスが世界の商品を輸送する国家に、言い換えるなら、世界の物流を支配する国家になったということを指している。イギリスの物流は、文字どおり、世界を動かした。

このように、物流が歴史を変えた事例は枚挙にいとまがない。これまでの歴史研究では見過ごされがちなテーマであったが、世界史のダイナミズムを的確に把握するには、欠くべからざる要素といえる。

玉木 俊明 京都産業大学経済学部教授

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たまき としあき / Toshiaki Tamaki

専門は近代ヨーロッパ経済史。1964年、大阪市生まれ。同志社大学大学院文学研究科(文化史学専攻)博士後期課程単位取得退学。博士(文学、大阪大学)。著書に『ヨーロッパ覇権史』『ヨーロッパ 繁栄の19世紀史』(ちくま新書)、『近代ヨーロッパの誕生』『海洋帝国興隆史』(講談社選書メチエ)、『〈情報〉帝国の興亡』(講談社現代新書)、『近代ヨーロッパの形成』(創元社)、『ダイヤモンド 欲望の世界史』(日本経済新聞出版)など多数。訳書にヤコブ・アッサ『過剰な金融社会』(知泉書館)などがある。現在、ウェブメディア「Modern Times」にて連載中。https://www.moderntimes.tv/

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