幻の五輪競技「犬ぞりレース」を知ってますか 1932年「一度だけ」行われた競技の史実は?

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Q12. オリンピックでのレースの模様は?

セパーラ選手も参加したレークプラシッドオリンピックの「犬ぞりレース」では、予想どおりの熱戦が繰り広げられました。

レースのスタートはレークプラシッド中心部のオリンピックスタジアムで、その後は郊外の大自然に囲まれた美しい風景の中、雪に覆われた州や郡の道路、乗馬などで使われる細い林道などを巡回するコースでした。

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ただし平坦な場所ばかりではなく、途中には心臓破りの丘や、後半のアップダウンが続く農場地帯などもある、かなりタフなコース設定となっていたため、スタジアムにゴールすると同時に昏倒するマッシャーもいたほどです。

そして1日目の結果は、1位「ゴダード選手」(2時間12分5秒)、2位「セパーラ選手」(2時間13分34秒)と、その差はわずか1分余り。いきなり接戦にもつれこんだのです。

Q13. 優勝したのはどちらの選手ですか?

勝敗が決する2日目のレースをこの目で見届けようと、2日目もスタジアムはもちろん、40kmに及ぶ沿道にも多くの観衆が詰めかけ、会場は熱気に包まれました。

チェックポイントから逐次報告され、掲示板に表示される各チームの通過タイムに観衆がどよめく中、栄冠を手にしたのは、この日もトップのタイムでゴールしたカナダの「ゴダード選手」でした。合計タイムは4時間23分12秒。「セパーラ選手」も健闘したものの、惜しくも4時間31分1秒の2位という結果に終わりました。

歴史には「埋もれた興味深い話」がたくさんある

ところで、この「犬ぞりレース」に出場していたアメリカのシーリー選手は、全12チームのうち唯一の女性マッシャーでした。順位は残念ながら最下位(7時間14分46秒)と奮いませんでしたが、堂々の完走を果たしています。

こうして「犬ぞりレース」は、大会全体を通じて最も感動を与えた競技のひとつに数えられる大盛況のうちに幕を閉じました。

今回解説した「幻のオリンピック競技」のように、歴史に埋もれた興味深い話は数多くあります。歴史を知れば、「世の中」が違って見えます。ぜひ歴史を学び直すことで、知識や教養と同時に、「知的な楽しみ」を体験してみてください。歴史を知ることは、それだけで楽しいものだからです。

山岸 良二 歴史家・昭和女子大学講師・東邦大学付属東邦中高等学校非常勤講師

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やまぎし りょうじ / Ryoji Yamagishi

昭和女子大学講師、東邦大学付属東邦中高等学校非常勤講師、習志野市文化財審議会会長。1951年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。専門は日本考古学。日本考古学協会全国理事を長年、務める。NHKラジオ「教養日本史・原始編」、NHKテレビ「週刊ブックレビュー」、日本テレビ「世界一受けたい授業」出演や全国での講演等で考古学の啓蒙に努め、近年は地元習志野市に縁の「日本騎兵の父・秋山好古大将」関係の講演も多い。『新版 入門者のための考古学教室』『日本考古学の現在』(共に、同成社)、『日曜日の考古学』(東京堂出版)、『古代史の謎はどこまで解けたのか』(PHP新書)など多数の著書がある。

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