名門モンブラン、「8万円電子ペン」を売る理由 リアルの「紙」と「ペン」を超える日は来るのか

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ただ、電子ペンが鉛筆やボールペンの代替品となるまでには、まだ多くの課題が残されている。

電子ペンが今後普及する上では乗り越えるべき課題もある。現状では、OSが異なる端末では使うことができない。また、書き心地にも改善の余地がある(撮影:田所千代美)

1つは、端末に搭載されたOSによって利用できる電子ペンが変わり、相互に互換性がないことだ。たとえば、アップルのiOSを用いたiPadで、ウィンドウズのSurfaceペンを使用することはできず、逆もまたしかりだ。今後は、電子ペンから出る信号や、デバイス上に筆記されたデータの規格の標準化が求められる。そこでワコムは、電子ペンで書き込まれたデータの共通プラットフォーム「WILL」を開発し、提携先に提供する取り組みを行っている。「具体的には明かせないが、世界のトップメーカーから高い関心を持ってもらっているのは事実だ」(井出氏)。

100円玉で買える電子ペンを目指す

加えて、その書き心地にも改善の余地はある。特に、曲線が多いアルファベットとは異なり、一角一角ペン先を離す必要のある漢字の場合は、わずかなズレが1字全体のバランスを欠く原因になる。速記した際に、電子インクの出方に遅れがないかも、書き心地を大きく左右する。「芯が紙に沈んでインクが出ることで感じられる、“書いている”という感触をいかに出すかが最重要課題だ。そのために、当社では全社の4分の1にあたる総勢250名を書き心地の研究に投じている。今後はもっと割いてもいい」(井出氏)。

電子ペンの強みは、なんといっても書いた情報がデジタル化されることにある。それにより、紙への筆記にはできない、瞬時の共有、検索、編集が容易になる。現在の2つの課題が改善されれば、教育やビジネスシーンでの利便性はより向上するだろう。

井手氏は、「当社の目指す究極のゴールは、ペンの発する信号や、芯に当たる部分の形状を標準化することで、コンビニで100円玉を出せば電子ペンが買えるようにすることだ」と豪語する。電子ペンが鉛筆の代替品になる日は果たして来るのだろうか。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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