株高の裏で、「金融所得」増税が浮上している 所得格差是正には、これしか残っていない

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2017年暮れに閣議決定された「平成30年度税制改正大綱」では、給与所得控除が見直され、2020年から課税前給与収入が850万円超の人は増税となることになっている。その狙いは所得格差の是正を図ることだ。

しかしながら、増税となる850万円を超える給与所得者が、果たして格差是正の対象となる「金持ち」といえるのか、という疑問が出てきた。給与所得控除の見直しを通じた所得格差是正は、平成30年度税制改正大綱に盛り込まれた見直しまでで、かなり限界に達しつつある。控除を是正する余地は、本連載の拙稿「『年収850万円超の人は増税』がなぜ妥当か」で詳述したように、所得控除を税額控除に変えるぐらいだ。

ならば、所得格差是正は、今の仕組みではもう無理なのか。決してそうではない。

課税前収入が1億円超で逆進性が現れるなら、いっそのこと、金融所得も他の所得と合算(総合課税)して累進課税すればいい、と思うかもしれない。だが、これは他の先進国でも採用しない趨勢にあり、望ましくない。グローバル化がますます進み、デリバティブなど金融技術が高度化する中で、金融所得に対する累進課税は実効性がなくなっている。仮に、高度な金融技術を使うと収入を得るタイミングを自由に変えられる金融所得に対し、累進課税をすれば、高率で課税されないように節税技術ばかりが発達してしまう。消費税率が高く社会保障の充実している北欧諸国でも、金融所得には累進課税していない。

税率引き上げとNISA拡充の合わせ技で

金融所得を累進課税せずに、所得格差を是正しようと考えれば、2013年と2015年の所得税負担率を比較すればわかるように、金融所得に対する税率を上げればいい。そうした発想が所得格差是正に重きを置く側から出てきた。現在の税率20%から25%に引き上げるという案もある。

ただ、金融所得に対する増税は、特に株式市場への悪影響が懸念される。株式の課税後収益率を下げることにもつながり、株への投資意欲が減退すれば、株価を下げる要因になりうる。

単に金融所得に対する税率の引き上げだけだと、マイナス要因だけとなるうえ、株式の配当や売却益を得ている中間所得層にまで増税の影響が及ぶ。そこでパッケージとして考えられるのが、NISAやiDeCoの拡充だ。前述した家計の安定的な資産形成を支援することは、長寿化するわが国において重要なこと。年収1億円超における逆進性を是正するとしても、それ以下の人の金融所得にまで重く増税してしまっては、うまく所得格差を是正できない。

NISAとは、個人投資家を対象とした証券優遇税制で、運用した株式投信などで得た運用益は一定期間非課税となっている。もっとも、非課税となる上限額が設けられている。またiDeCoは、60歳以降に引き出すことを条件に掛け金(上限あり)を全額所得控除でき、投信などへの運用時は非課税で、受給時にも税負担が軽減されるという優遇がある。年収1億円超の人が得る金融所得は、NISAやiDeCoの上限額の枠内ではとても収まらないほど、多くの額の資産運用によって生じている。

だから、金融所得に対する税率を引き上げつつ、NISAやiDeCoを拡充すること。そうすれば、それら上限額の枠内で収まる程度に株式投信などに運用する人にとって、税率引き上げの影響はほとんどなく、上限額を上回るほど多くの額の運用をする人にとっては、税率引き上げの影響が及ぶ結果になることが予想される。上限額を上回るほど多くの額を運用する人は、運用益が得られるときには高所得者になる人だ。

株価上昇が政権維持のバロメーターとみている安倍晋三政権が、はたしてこうした金融所得課税の見直しを検討するか。一定の結論が出るのは、今年の暮れだ。議論する時間はまだある。金融所得に対する増税が与える、所得格差是正の効果や金融市場への影響について、国民的に活発な議論が行われることを期待したい。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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