株高の裏で、「金融所得」増税が浮上している 所得格差是正には、これしか残っていない

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確かに、金融所得に対する課税のあり方については、政府大綱には何も明記されていない。政府として閣議決定していないから、何もコミットしていない。とはいえ与党大綱には、上記の一文が盛り込まれている。時限は区切っていないものの、近いうちに与党税制調査会で”総合的に検討”することになろう。

なぜ今、金融所得課税の議論が出てくるのか。

それは、残された所得格差是正の有効策が、金融所得に対する税率の引き上げしかなくなってしまったことが主要因である。

そもそも、金融所得には、給与所得や年金所得とは分離して、20%の税率で所得税と住民税が課されている(復興特別所得税は別途)。給与所得や年金所得は、他の所得と合算されて累進課税されているが、金融所得は定率での分離課税だ。2013年までは税率が10%だったが、損益通算(別の金融商品で損失が出た場合に収益を得た金融所得と相殺できる仕組み)を導入することとあわせて、2014年から今の「20%」になった。

給与所得や年金所得だと、所得税は最高税率45%(住民税と合わせると55%)で累進課税される反面、金融所得だと、いくら稼いでも20%の定率の分離課税となる。この制度がどんな現象を引き起こしているか。

定率20%の分離課税が起こす不公平

それは、課税前収入が1億円以下までは、収入が増えるにつれて所得税の負担率が上昇するが、1億円を超えると、収入が増えるにつれて所得税の負担率が低下するという現象だ。ここでいう所得税の負担率とは、課税前収入に比べた所得税額の割合で、図では所得階級別の平均を取っている。

わが国では、所得税は累進課税しているから、1億円を超えてもなお収入が増えるにつれて所得税の負担率が上昇する、つまり高所得者ほど所得税の負担が重いことになっているはず、と思う人は多い。しかし、現実はそうではないのだ。これは、以前からずっとそうで、知る人ぞ知る現象だった。こうした現象は日本だけでなく、米国などでも起きており、経済学者のミルトン・フリードマンもかつて、米国におけるこうした現象を問題視していた。累進課税しているのに、所得が増えるほど税負担が軽くなる、「逆進性」が現れるという点である。

なぜ逆進性が生じるのか。それは金融所得で低い税率になっているからだ。1億円を超える高所得者は、累進課税の対象となる給与所得によって、所得のほとんどを稼ぐことはない。わが国の研究によれば、年収2億~3億円の人は、課税前収入のうち、金融所得(利子所得・配当所得・株式等譲渡所得)が約24%を占める。年収5億~10億円の人は金融所得が収入の約40%、年収10億円超の人は金融所得が約74%を占めるという。

金融所得に対する税率がまだ10%だった2013年では、課税前収入が5000万円超1億円以下の人の所得税負担率は約27.5%だが、1億円超の人の所得税負担率は、収入が増えるほど低下していた。収入が2億~5億円の人は約23.2%、20億~50億円の人は約13.1%と、1000万~1200万円の人と同程度の負担率だったのだ。まさに逆進性である。当時、50億円の収入をすべて金融所得で稼ぐと所得税負担率は10%になったことから類推すれば、こうした現象は当然といえば当然だった。

金融所得に対する税率は、2014年に20%に引き上げられた。これによって、課税前収入1億円超の人に現れる逆進性は緩和されるとともに、1億円超のところで所得税負担率が顕著に上がった。いまや、年収20億~50億円の人の所得税負担率が1000万~1200万円の人とほとんど同じ、ということはなくなった。とはいえ、1億円超で収入が増えるにつれて所得税負担率が低下する現象は、依然残っている。

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