「他人の失敗」を見ると快楽を覚える本質理由 生物種としてのヒトに仕組まれた特性だった

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シャーデンフロイデが、「妬み」感情と不可分であることを前提とすれば、オキシトシンは、「妬み」から「シャーデンフロイデ」に至る一連の感情の流れを強めてしまう物質であると考えることができるでしょう。

なぜ人間の長い歴史の中で、持っているだけで苦々しくなるようなこの「シャーデンフロイデ」という感情がなくならなかったのでしょうか。

盲腸にさえ、存在する意味があるということが近年、明らかになってきたといいます。まして脳は、人体の中で最も燃費の悪い臓器であり、そこまで余裕のある器官ではありません。不要な機能は、どんどん切り捨てられていきます。

生物種としてのヒトに仕組まれた特性

「シャーデンフロイデ」や「妬み」といったネガティブ感情は、一見ないほうが良いように思えても、何らかの重要な機能を担っているはずなのです。

「シャーデンフロイデ」や「妬み」は、個人の間でも生じますが、集団内で生起したときに、集団にとって都合の悪い個体を標的として「発見」し、「排除」するために使われます。

『シャーデンフロイデ 他人を引きずり下ろす快感』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

ヒトは、集団を構成することで生存確率を高め、生き延びてきた種であると考えられています。すると、最も生存確率を下げるネガティブ要因が、集団の崩壊になります。

集団というのは構成員が少しずつ犠牲を供出することによって成立しています。たとえば、時間、労力、金銭的な負担、心理的負荷などのリソースがそれにあたります。これらを集め運用して、そのメリットをみんなで享受するのが集団の構成要件です。

たとえば、そこに一人だけ、リソースを供出しない人が存在したと考えてください。供出しないにもかかわらず、メリットを享受している。

つまり、その人一人だけが得をしているという状態です。リソースを供出せずともメリットを受けられるなら自分たちも供出をやめようと他の構成員が考え始め、リソースを供出し続ける真面目な構成員の負担が大きくなります。すると、あっけなく集団は崩壊します。

このような事態を避けるため、リソースを供出しない一人を排除するか、その行動を改めさせる必要が生じます。これが社会的排除の原理です。

最近目立っているあの人、として人々の目に映るのは、既存の社会を壊そう、変えようとする人のことです。こうした人の台頭を許さないというのは、生物種としてのヒトに仕組まれた特性なのです。

考えてみれば、シャーデンフロイデも、妬みも、どちらもヒトに固有といっていい感情です。この感情を繙くことで、人間性、などといううさんくさい言葉にかき消されてしまわない、真の人間の本質が見えてくる、と私は考えています。

中野 信子 脳科学者

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なかの のぶこ / Nobuko Nakano

医学博士、認知科学者。1975年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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