「国内のエンバーミング需要を考えたとき、多く見積もっても亡くなった方の20%がいいところだと思います。年間死亡者が130万人なら26万人。対して、悲嘆にくれるご家族やご友人はどれだけいるのか考えると、130万人の周りにそれぞれ10人近くいるとしたらざっと1300万人になるわけです。そんな大きな市場なのに、ビジネスとしてその人たちの受け皿になっている取り組みはないなと気づいたんですよ」
この種の取り組みはビジネスとしてとらえなければならないと橋爪さんは強調する。ボランティアベースだと、継続的に活動するのは難しく、全国に散らばる1000万近くの人をサポートする展望が描けない。寄付金や補助金、あるいは参加者のモチベーションを拠り所にするのもリスクが大きい。目的を成すならしっかりと対価をとって拡大していけるビジネスベースが最善だ、と。
そこで、2008年にもう一本の収益の柱として、グリーフサポートを伝える教育事業とそれを元にした法人コンサルティング事業を始めた。橋爪さん1人で展開できる事業のため、元手がかからず黒字化は早かった。企業に呼ばれて行くスタンスではスケジュールが回らなくなるほど好評で、同社のセミナールームに各々来てもらう方針に替えたほどだ。
この取り組みは2012年発足の「グリーフサポートバディ」という同社運営の認定制度にもつながっていく。2018年春にバディ認定者は100人を超える予定だ。葬儀業界に限定せず、さまざまな職種の人が取り組んでいるという。
そして、最近はさらに本質に立ち返ったビジネスを構想している。
「今は世界中で無宗教化が進んでいるんですが、それでも追悼の場として葬儀を大切にする動きが目立っています。それを支えるセレブラントという職業が注目を集めていまして、いずれ僕の会社でもやりたいなと思っているんですよ」
宗教に則った葬儀を軽んじるわけではなく、無宗教であっても厳粛な追悼の場をプロデュースできる職業が広まれば選択肢が増えて、誰も損しないかたちで共存できるという思いがある。近年続く葬儀の簡素化からくる“葬儀離れ”の流れを防ぐのが狙いだ。
「結局のところ、エンバーミングも葬儀もグリーフが本質といえます。どんな世の中になってもそこは変わらない。葬儀の簡素化や宗教離れといった表層の動きにつられて、そこがなおざりになってしまってはいけないと思うんですよね」
本質に向かって仕事をしている確信
橋爪さんの取り組みは、本質へ本質へと進んでいく。それは「具体から抽象へ」という、ビジネスの形にしづらい探求のように思えるが、グリーフサポート事業もエンバーミングと同じように収益化させた実績がある。
「本質的なところは突き詰めるほど面倒なんです。だけど、面倒だからこそ、コピーされにくい。絶えず変化する部分もあるから、そのときそのときの成果物をまねしても長続きしないですしね。回り道のようでいて近道を進んでいるような気もしています」
そう信じて歩んでいける根底には、あらゆる難関を正面突破してエンバーミング技術をものにした留学時代の自信がある。
10年後20年後はどんな活動をしているのか。まだ見えないが、身体が動いて社会に必要とされている限りは、本質に向かって仕事をしている確信があるという。何しろ74歳の父も現役バリバリで働いている。引退のイメージはわいてこない。
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