北朝鮮「核開発の資金源」は一体どこなのか 国連制裁の最前線で実際に起きていること

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著者は2011年10月から16年4月まで、国連安保理の北朝鮮制裁委員会の専門家パネル委員を務めた。専門家パネルは、国連のどこにも属さない組織である。専門家は事務総長によって任命され、独立した立場から制裁違反事件の捜査を行う。任期は1年ごとに更新され最長5年。メンバーは安保理常任理事国5カ国(米英仏中露)と日韓から各1名、そして開発途上国を代表する1名のあわせて8名で構成される。

北朝鮮は決して孤立などしていないという事実

本書の中で著者は繰り返し、国連による制裁が力を発揮できないのは、加盟国が制裁を正確に履行していないからだと強調している。国連加盟国には専門家パネルの捜査活動への協力義務があるのだが、残念ながらこれは建前だ。専門家パネルの照会に見るからに消極的な対応しかとらない国もあれば、さも協力的な姿勢をみせながら平気で虚偽の回答を寄越す組織もある。

こうした国や組織はどうやらさまざまなルートで北朝鮮とつながっているらしい。2012年12月に北朝鮮が「銀河3号」ロケットの発射実験を行った際、韓国海軍は黄海上に落下したロケットを回収した。ここから驚くべきことがわかった。

ソ連製や中国製、英国製やアメリカ製など、14種類60点以上の外国製部品が見つかったのだが、ほとんどが安価な量産品だった。北朝鮮は世界中から買い集めた市販品をつなぎあわせ、事実上の長距離弾道ミサイルの打ち上げを成功させたのだ。それらの製品の大半は現在では規制対象となっている。にもかかわらず現在もさまざまな国の製品が北朝鮮へと渡っているのである。

著者の仕事は、具体的な制裁違反行為についてしっかりと裏づけを取り、国連の公式文書である専門化パネルの年次報告書に載せ、悪質な企業を制裁対象に指定するよう、安保理に勧告することだ。

その作業は地味で根気を要する。現地に飛び、足で情報を集め、登記簿を突き合わせては、合法的な装いを施された密輸ルートをあぶりだして行く。世界中にクモの巣のように張り巡らされた犯罪ネットワークを駆使した非合法ビジネスを摘発し、北朝鮮の外貨獲得ルートを潰すことができればいい。だが相手はしたたかな北朝鮮だ。一筋縄ではいかない。それどころか著者の捜査で見えてきたのは、北朝鮮は決して孤立などしていないという事実である。

たとえばそのひとつが台湾だ。台湾が北朝鮮にとって重要な物資調達ルートであるという事実は日本ではほとんど知られていない。「一つの中国」を掲げる中国の強硬な反対によって台湾は国連への加盟を認められていない上に、中国側の圧力で国連は台湾と接触すらできない。そのために台湾は制裁の大きな抜け穴になっているという。国際政治の力学が制裁の場に影を落としている一例だ。

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