世界経済の一つの姿が頓挫、大きなパラダイム転換も--武藤敏郎・大和総研理事長

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--昨年8月以降の米国の金融市場の混乱には出口が見えません。

金融問題は、一種のシステミックリスクになったと言っていい。

米国の住宅金融公社(GSE)2社に対する今回の救済策は、暗黙の政府保証がなされていたGSEを破綻させないという明確な意思表示であり、市場に安心感を与えたと思います。市場に追い込まれて救済策を早めたという面もあると思いますが、当局の対応は評価できます。

ただし、GSE以外の金融機関に関しては依然として問題が残されており、抜本的な解決策がとられたわけではありません。

大ざっぱな理解では、米国の金融機関の損失は、この間、25兆円ぐらい。欧州、アジアの金融機関も含めると、50兆円ぐらい。ほかの経済主体、すなわち年金基金や生保、ヘッジファンドなどの保有金額も金融機関に匹敵するといわれ、全損失を合わせれば、100兆円ぐらい発生しています。これ以上出ないのかどうか、確信がないということです。

理由は原資産である住宅の価格が下げ止まっていないから。住宅価格はS&Pケース・シラー住宅価格指数で見ると06年がピークですが、現時点でそこから2割下げ、まだ、下げ続けている。私は、ピーク比で35%から40%ぐらい下がらないと正常化しないと見ており、下げ止まるのは2010年の中頃と見ています。マーケットは変化を先読みしますから、住宅価格の下落幅が減速して底打ちの兆しが見えてくれば、09年の終わり頃に反転する可能性はあると思います。それまでは不透明、不確実で何が起こるかわからない。

起こったことの深刻さは非常に重大。正常化するには時間がかかるでしょう。日本のバブル崩壊とはいろいろな意味で違うと思いますが、今までにない新しい金融イノベーションの中で起こった経済事象であり、今後どうなるかわからないところがあります。複雑で広がりのある混乱が起こり、世界経済に大きな打撃を与えていくのではないでしょうか。

戦後世界経済が作り上げた一つの姿が頓挫した、と言えます。これから、同じようなシステムをまた再構築していくのか、それとも大きなパラダイムの転換が起こるのか。そうした論点があると思います。

--日本の景気減速の中で、バラまき復活、財政再建先送り論も出てきています。

8月末、政府は総合景気対策を決めましたが、明確なのは公共事業追加というのはしない、総需要政策はとらないということ。もっとも減税は一応やるとしています。

原油価格の上昇によって痛みを現実に感じている人に、痛みを緩和する措置をとる、中小企業の倒産が増える可能性があるので、信用保証を提供していくという考え方など、経済が回復してくるまでの間の混乱、不安を最小限に抑えようとの政策は、政治的には十分に理解できます。

ただ、財政再建はコンセンサスであり、その原則を曖昧(あいまい)にしてしまうと、長期金利の上昇や意図せざる金融引き締めなどのしっぺ返しを、マーケットから受けることになります。日本人が国債を買っても世界的に見れば格付けが落ち、価格が下落することになる。あまりポピュリズム的なことをやると、国民からはかえって信用されない。きっちりした政策論争をする必要があります。

(松崎泰弘 大崎明子 武政秀明 撮影:鈴木紳平 =週刊東洋経済)

むとう・としろう
1943年7月生まれ。66年東京大学法学部卒、大蔵省入省、99年主計局長、2000年大蔵事務次官、01年財務事務次官、03年日本銀行副総裁、08年6月東京大学先端科学技術研究センター客員教授、同7月より現職。

(インタビューは9月上旬に行われました)

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