グルジア戦争で新たな冷戦時代が幕開け、序盤戦はロシア優位で進む

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エネルギー価格の高騰により、ロシアの外貨準備は4644億ドル(07年ジェトロ調べ)と中国、日本に次いで世界3位を誇る。

かつてソ連は質はともかく量では世界有数の工業国だった。だがソ連崩壊後、国際競争にさらされた工業はほぼ壊滅した。エネルギーに依存するモノカルチャー経済に変わった。

これがかえってロシアを欧米の経済制裁が利きにくい国にしている。

「中国は外資に依存した経済発展を遂げている。欧米、日本に敵対できない国である。反対にロシアは仮に外資が引き揚げても困らない国になっている」(孫崎氏)。

初代駐日グルジア大使イワネ・マチャワリアニ氏は、ロシア・グルジア戦争についての記者会見で次のように指摘する(8月20日)。

「ロシアの事実上の支配者であるプーチン首相は、新しい多極化した世界の最強国の支配者になる野望を抱いている。今回のグルジア戦争はこのテストケースである。ロシアは今回のことで西側がどれだけ耐えられるか(抵抗できるか)を試そうとしている。ロシアは今日の世界秩序を変えようとしている」--。

さらにマチャワリアニ大使は、「今回のロシアのグルジア侵略のような行動を防がなければ、ロシアと国境を接するポーランド、ウクライナ、中央アジア諸国にとって安全保障上の大きな脅威になる」と警告する。

ある意味で今回のグルジア戦争は、欧米とロシアによるウクライナ争奪戦の前哨戦かもしれない。

帝政ロシア、ソ連が膨大な犠牲を払って獲得した西方の勢力圏をロシアはわずかな年月で失った。

ロシアの現在の西方の国境線は、17世紀にポーランドから左岸ウクライナ(東部ウクライナ)を獲得する以前に後退している。

ウクライナはロシアの母体になったキエフ・ルーシの発祥の地であり、ロシア、ウクライナ、ベラルーシはロシア人にとっては同じスラブ人三兄弟の民族である。

ウクライナは面積60万平方キロメートル、人口4638万人、うちウクライナ人が78%、ロシア人が17%を占めている(外務省Webから)。

図のようにロシア人はドニエプル川左岸の東部ウクライナ、クリミア半島、そしてモルダヴィアに多く住んでいる。特に東部ウクライナはモスクワ周辺、カザンを中心とするボルガ・ウラル地方とともに帝政ロシアの中核部分を形成した地域である。また、クリミア半島にはロシア黒海艦隊の母港があり(土地はウクライナから租借)、軍事的にも非常に重要な地域である。

04年ウクライナでオレンジ革命が起こり、親ロシア勢力を押し切る形でヴィクトル・ユーシチェンコ大統領が率いる親欧米政権ができた。ウクライナはグルジアと同じくNATO加盟、EU加盟を目指す。

これが実現すれば、ロシアにとって耐えがたい事態である。すでに今年の2月にプーチン大統領(当時)は、「ウクライナがNATOに加盟すれば報復行動に出る」とユーシチェンコ大統領に警告している。

グルジアとウクライナのNATO加盟へのMAPは12月にも再び検討される予定だが、「欧州がリスクを取って両国のNATO加盟を認める可能性は小さい」(孫崎氏)。

新たな冷戦の序章はロシア優位のうちに進行している。

(内田通夫 =週刊東洋経済)

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