6年間痴漢に遭い続けた女性が、今語る理由 フランスで被害体験を描いた「Tchikan」出版

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――痴漢を行う日本の男性についてどう思いますか。

彼らは、普段の社会的重圧から逃れられないという理由から痴漢行為に走ることがあるそうです。精神保健福祉士で、社会福祉士の斉藤章佳氏は、『男が痴漢になる理由』という本の中で、弁護士や警察から1000以上超える事例について相談を受けた結果、どんな男性でも痴漢になり得る可能性があるという結論に至っています。痴漢をする男性の半数は、それに及んでいる時も勃起しないといいます。痴漢を行う男性にとって、痴漢は一種のアディクション(中毒)なのです。

だからといって、まったく関係のない人が被害を受けて良いという理屈は通りません。ましてや、その被害のせいで、思春期に自殺を考えるほどの深い屈辱と絶望を味わうとしたら。

フランス女性たちの反応は?

――本を書くにあたって、日本語で書かれた痴漢についての文献などは参考にしましたか?

大阪大学の岩井茂樹氏による「『痴漢』の文化史:『痴漢』から『チカン』へ」(『日本研究第49集』)から引用を行っています。あとは痴漢についてグーグル検索した場合、出てくるのはポルノ映画ばかりでした。しかし、私のような痴漢犠牲者の立場に立って書かれた本は、目にしたことがありません。

――フランスではどうでしょう。

フランスでも、公共交通機関で性的暴行の被害を受けたことがあります。1度、地下鉄の4人がけの席に座っていたとき、他の3席に若い男性のグループが座りました。ある駅に着いたとき、そのうちの1人が私の胸を急につかんだかと思うと、全員逃げるようにして降りていきました。

――『Tchikan』に対するフランス女性の反応は。

彼女たちは本当にショックを受けていました。世界で最も平和といわれる国で痴漢が起こるとは想像もしなかったからです。

――批判的な人もいますか?

ええ。私や、この本に対して批判的な日本人もいます。彼らが(日本では出版されていない)この本をどのような経緯で知ったのかはわかりません。彼らは、ただ私が日本に対してネガティブなイメージを作ってしまったということに腹を立てているのです。ほかの国でも痴漢は存在するのに、と言って。しかし、それは真実ではありません。少なくとも、私が日本でひどい被害に遭ったのは事実ですし、フランス人の中には、「日本だけではなくフランスを含む世界の問題」と捉える人も少なくないからです。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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