日本の「少子化対策」はプーチン大統領に学べ 出生率アップのいい事例はロシアにあった?
むろん、出生率の上昇は、プーチン体制下での社会・経済環境の安定を背景にしている。プーチン大統領自身、各地を訪れて「生めよ増やせよ」の官製ベビーブームを煽った。男性の平均寿命が65歳まで上昇したこともあり、ロシアの人口は2013年から、わずかながら自然増を記録するようになった。人口問題の改善は、プーチン政権の最大の功績の1つだ。
なお、国家統計局が発表したロシアの人口は2017年1月時点で1億4680万人で、2013年より350万人程度増加している。これは、2014年に併合したウクライナ領クリミアの人口約200万人を加えたためで、ロシアの出生率、出生数もクリミアをカウントしている。
だがロシアの出生数増加は、出産可能年齢の女性の人口が増えたことに伴う自然増の要素が最も大きい。1980年代後半のペレストロイカ(再編)の時代はベビーブーム期で、出生率は2を超えていた。この世代が2005年以降20歳を過ぎ、人口再生産年齢に入った。プーチン政権はその波に乗って出産奨励策を打ち出し、効果を上げたといえる。
出生率上昇の闇の部分は、非ロシア人の出生率がロシア人以上に上昇し、人口動態に変化がみられることだ。多民族国家・ロシア連邦に占めるロシア人の比率は現在79%とされるが、25年前のロシア独立時は83%だった。イスラム教徒のチェチェン人女性は生涯に平均4人子供を生むとされ、イスラム人口の膨張が目立つ。イスラム教徒の人口は公表されていないが、2000万人近いとの説もあり、ロシアの人口問題専門家の間では、今世紀末にはイスラム系の比率がロシア系を抜くとの予測もある。
だがプーチン体制下で順調に増加してきた出生率も、2016年から再び低下しつつある。国家統計局によれば、2016年の出生数は前年より3%減少した。2017年1~9月の新生児は計120万人で、前年同期比より16万人、11.5%の減少となった。
出生数の減少は、80年代のベビーブーム期に生まれた女性が次第に高齢となったことが大きい。90年代の経済危機の時代に生まれた女性の人口層は薄く、今後再び人口減少社会に逆戻りしそうだ。
ロシア国立研究大学高等経済学院人口問題研究所のビシエフスキー所長は、「出産可能女性の減少により、ロシアは今後15年は人口減少が続く」とし、2050年の人口は1億700万人まで減少しそうだと予測した。同所長は、今後深刻な労働力不足に直面する可能性があるとし、旧ソ連に居住するロシア系住民の帰還促進や外国人労働者の誘致拡大を提案した。
ロシアの場合、5歳未満の児童死亡率が1000人当たり7.7人と高い(日本は同2.7人)。交通事故の死者は年間約2万5000人(日本は約3900人)、他殺約1万5000人(日本は約290人)、HIV感染者推定200万人(日本は推定2万5000人)、麻薬常習者推定400万人(日本は推定20万人)など、出生数は日本より多くても、社会環境から短命に終わるケースが多いことも事実だ。
新たなバラマキ型出産奨励策
こうした中で、プーチン大統領は11月28日、クレムリンで人口問題について演説。「ロシアの人口動態が再び悪化しており、包括的な措置を策定することが急務だ」とし、人口増に向けた新たな政策を打ち出した。