日本国民が払わされかねない林業政策のツケ 「森林環境税」や「森林バンク」は本当に必要か
さらに、⑤の木材の利活用を過度に制限している規制や基準の見直しも急務だろう。中央政府の役割はこのあたりにあって、過度な規制や基準を排除して、それ以外の運用は予算も含めて都道府県や市町村に任せる、というのがベストな政策ではないのか。
それでは、中央官庁の仕事がなくなる、利権も消えるというのが、現在の中央政府が抱える大きな課題と言える。要するに、“事業縮小”に当たるような政策はとれない、というのが現在の日本の中央政府の大きな欠点だ。日本全体よりも、省の利益のために動いているとしか思えない。
たとえば、人口集積地に近い県では森林の再開発にはスギ植林ではなく太陽光発電設備の設置場所として再開発する手があるかもしれない。逆に地方の人口過疎地であれば、低木の樹木を植えて、登山や観光に適したエリアづくりも考えられる。
都道府県によって、あるいは市町村によって、自然や環境はばらばらだ。いちいち政府が資金の流れまで押さえて、日本全体に画一的な山林を作る必要はどこにもないはずだ。
「農地バンク」の二の舞?
森林環境税の導入構想は、手入れが行き届いていないスギなどの人工林を市町村などが集約して、経営意欲のある森林経営者に貸し出す新たな制度「森林バンク」の財源として活用されることになる。
山林を民間の林業経営事業者などに貸すことによって、大規模化することで「収益性のある土地」に進化させようという発想だ。しかし、この発想はすでに「農地バンク」構想で試した案であり、失敗がはっきりしている。
農地バンクとは、農地中間管理機構のことで、2016年度に農地バンクを介した農地の集積面積は、2015年度と比較して4割も減少している。貸し手と借り手のニーズがマッチしていないためだ。この農地バンクの林業版が森林バンク構想だ。
森林環境税は、国が市町村経由で徴収し、私有林の面積や林業従事者数に応じて「譲与税」として自治体に配分すると言われているが、全国の8割の都道府県や市町村の一部が似たような税金をすでに徴収しており、それぞれ独自の森林管理や林業の育成を実施している。
半世紀前の農水省の政策ミスのツケを背負いながらも、伐採期が到来しているスギを抱えて独自の政策を推進、検討しているわけだ。ところが、いかんせん予算がない。国が森林環境税を創設して、全国一律税金を徴収するよりも、税率や税額もあわせて各都道府県や市町村に任せたほうが合理的だと筆者は思う。
地方に住む人間に多大な負担がかかる、という反論もあるだろうが、観光資源税といった形で、その地を訪れた観光客に一部を負担してもらう方法もある。中央政府が国民から税金を一括して徴収し、その税金を再び地方に交付するという従来の政策パターンは、そろそろ見直してもいいのではないか。
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