決めた年月に届く「心の手紙」が人気のワケ 「3年後の自分」「結婚記念日に夫婦互いに」
これまでに受け付けた手紙は約5000通。手紙は耐火キャビネットの中で大切に保管され、指定された年月が来たら郵送される。同館の理事でアドバイザー、中野シゲ子さんによると、毎月数十通単位で手紙を発送しているという。
「人と人との心のつながり、きずなが大切」
なぜこのようなサービスを始めたのか。きっかけは、同館の館長で不動産会社を経営する渡辺浩幸さんが、東日本大震災後の約3カ月後に参加した宮城県南三陸町でのボランティア活動だった。渡辺さんは、活動を通して「人と人との心のつながり、きずなが大切」だと感じ、「未来に届く手紙を出せたら、さらに思いやきずなが強まるのではないか」と考えたのだ。
そこで、約10年前に購入した、鳴門海峡を一望できる高台に建つ洋館に心の手紙館をオープンした。シダレザクラ約350本をはじめ、ツツジやサザンカといった季節の花々が植えられた周辺一帯は「花見山」として地元の人々に親しまれ、桜の季節には多くの人々でにぎわう。美しい景色を眺めながら、リラックスして思いをつづるのにぴったりの場所だ。
アドバイザーの中野さんによると、子どもからお年寄りまで、幅広い年齢層の人々が同館で手紙を書いていく。手紙を書く目的も、「自分あてに」「結婚記念日に着くようにしたい」「病気の友人を励ますため」などとさまざまだ。
中野さんは「赤ちゃんの足型をとって手紙に同封される方や、毎年のように来られて、お互いにあてて手紙を書き合うご夫婦もいらっしゃいます。仲むつまじくてうらやましいです」と話す。
ほほ笑ましいエピソードも多い。家族で訪れ、乗り気ではなかった父親が一番長い時間をかけて手紙を書いたり、夫婦で来て、妻が「家に持って帰って書く」と言う一方で、夫が「感謝の気持ちを一言だけ」とその場ですぐに手紙を書き上げたり、子どもが自分あてに、色鉛筆を使って上手な絵を描き、誇らしげに見せてくれたり。手紙を巡って、さまざまな人間模様が垣間見える。