日本は、なぜ「性暴力被害者」に冷たいのか 伊藤詩織氏の主張は軽視できない

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日本では、女性の女性に対する「冷たさ」を感じる。たとえば、筆者の知人女性は伊藤氏の件について、「男性と2人きりで、夜遅くまで飲酒する女性なら、こんなことが起きても驚くべきではない」と話す。

こうした中でも伊藤氏は、警察での手続きや、いつ終わるともしれない事情聴取、彼女自身に向けられた疑惑の目、示談や金銭的解決を促す圧力に耐えた。5月19日には、身元を隠さずに記者会見を開くという前代未聞の手段にも出た。公表することに反対した肉親もいたため、しばらくは自らの姓を隠すことを選んだが、最近になってそれも明らかにすることにした。

社会が望む被害者の役割は果たさない

友人からの助言を退け、伊藤氏は社会が彼女に演じることを望んでいる被害者の安直な役割を果たすことを拒絶した。記者会見には、白いシャツの上に黒いスーツを着用し、普通の現代的な若い女性として臨んだ。

当時、森友・加計スキャンダルの真っ最中だったこともあり、安倍首相の支持者とアンチとの政争に巻き込まれそうになったと伊藤氏は主張する。同氏によると、『週刊新潮』で同氏の記事が掲載されようとしているといううわさが広がった時には、自宅に警察が訪れ、彼女の行動に政治的な意図があるのかどうかをチェックしたとしている。

今後、民事訴訟がどう進むのかは未知数だ。伊藤氏の弁護団の1人、杉本博哉弁護士は、「(民事訴訟は)一般的には1年半くらいかかる」と見る。「逮捕されるのと、されないのでは、証拠の質が違う」(同氏)ため、伊藤氏の主張が完全に認められるかどうかを現時点で予測するのは難しいが、仮にホテルの映像が証拠として提出されるようなことがあれば、真相究明に近づくかもしれない。

筆者自身は、警視庁の刑事部長だった中村氏が突然逮捕を取り消したにもかかわらず、それに対する正当な説明をしていないことを不誠実だと感じている。ここへきて、中村氏に説明を求めようとする動きもあるようだが、日本の政治家がなぜこの件について同氏に説明を求めてこようとしなかったのか、不思議でしょうがない。司法が政治から独立したものであることは理解しているが、それこそまさに「ブラックボックス」だ。

伊藤氏は会見でこう話していた。「日本のメディアは、不起訴だから報じないのではなく、それが本当に正しい判断だったか考えてほしい」。民事訴訟で真相究明が進むと同時に、日本で性的暴行対策が改善することが望まれる。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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