日本は、なぜ「性暴力被害者」に冷たいのか 伊藤詩織氏の主張は軽視できない

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数年前に日本で起きた強姦事件で、あるフランス人女性の代理人を務めたフランス大使館元随行警察職員も、自らの経験を次のように回想する。「警察官は被害者に対していかなる共感も示していなかった。彼女が薬物を摂取した状態で強姦されたので、警察は彼女にも責任の一端があると考えていた。たとえ彼女が不本意に薬物を飲まされていたとしても、だ。

この事件を扱っていた女性警察官ですら、男性と同じ反応を示していた。30年前のフランスの警察官だったら、レイプ被害者をそうやって扱っていただろう。しかし、今のフランスの警察は、レイプの通報があれば、被害者の証言を額面どおり受け取り、共感を示す。そして、警察は被害者の主張を立証することに力を尽くす」。

伊藤氏は、検察審査会の判断にも疑念を抱いている。発表によると、審査会の構成員11人のうち、女性は4人のみ(平均年齢は50.45歳)。仮に構成員の女性比率が半分に近い水準であれば、判断は変わっていたのではないか、と思うこともあるという。

世界的に広がる「#MeToo」の動き

現在、世界では性的暴行やセクハラに対する非難が世界的に高まっており、伊藤氏の件に関する海外メディアの関心も高い(実際、外国人記者クラブの会見には、多くの海外メディアが訪れていた)。きっかけとなったのは、10月15日付の米ニューヨーク・タイムズ紙が報じたハリウッドの映画プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏による性的暴行やセクハラ疑惑で、これに世界中の女性たちがたちまち反応したのである。

こうした中、女優のアリッサ・ミラノ氏がツイッターで被害を受けたことのある女性に「#MeToo(私も)」と声を上げるように呼びかけると、多くのハリウッド女優や世界中の女性たちが次々と自分の経験をツイートする一大ムーブメントに。これまで性被害に遭ってきた女性だけでなく、男性たちも自らの体験を共有し始めたのである。

しかし、日本ではこの動きがどうやら#youNeither(あなたも被害者ではない)になってしまったようだ。

実際、伊藤氏は女性を含む国民からの無関心や疑惑、ひどい反感に直面している。10月末の会見で伊藤氏は、「女性から脅迫やネガティブなコメントを受けたこともあった」と明かしている。

「今の(日本の)環境で生きていくには、忍耐強くなければいけないと(女性側が)思っているからではないか。たとえば、スウェーデンでは、警察官の30%が女性で、この割合は高いポジションでも変わらない。日本では、女性の地位や社会的立場、権力が低いことが(バッシングに)影響しているのではないか」。

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