日本は、なぜ「性暴力被害者」に冷たいのか

伊藤詩織氏の主張は軽視できない

伊藤氏によると、事態が発生してから5日後にようやく警察署へ出向いた時も、警察は当初、捜査に対して後ろ向きだっただけでなく、伊藤氏自身のために、刑事責任を問わないように助言したという。女性検察官で『性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック』の著者、田中嘉寿子氏によると、強姦事件のわずか4%だけしか、実際に警察に通報されていない。通報された場合でも、半数は起訴を断念。有罪判決が下された場合でさえ、初犯なら執行猶予がつくことがある。

11月17日、法務省は「犯罪白書」を発表した。それによると、日本で強姦被害に遭う割合は、10万人に1人と他国に比べて圧倒的に低い。フランスはこれの19倍、米国は31倍に上る。しかし、この数字が実際に日本で起こっている強姦の数字を表しているのかどうか法務省関係者に問うと、「これはあくまで通報された数字だ」と明かした。

強姦被害数は過少報告されている

別の法務省関係者はこう話す。「白書には他国との比較も収録されている。国連からそうするように要請があったからだ。しかし、強姦の定義は国によってまちまちなので、こうした比較は少々誤解を招くおそれがある。強姦が日本では過少報告されていることを、われわれは認識している。警察は事態を改善し始めた。われわれも、被害調査を実施し、被害者と刑事訴訟を関連づけてきた。今後もさらに被害調査を実施する」。

一方、フランスでは被害実態をより詳細に把握する努力がなされている。たとえば、こうした調査では、被害者の心情や話しやすさを考慮して、「強姦」という言葉が使われることはない。最近のフランス政府の発表では、フランスでは年間8万4000人が強姦被害に遭っており、このうち約1割が訴えを起こしている。

さらに重要なのは、2017~2019年にかけて1億2500万ユーロ(約167億円)をかけて、性的暴行被害者を支援するシステムを確立しようとしていることだ。

たとえば、被害相談のためのホットライン「3919」には年間約5万件の相談が寄せられるほか、フランス全体にカウンセリングセンターを327カ所設置。さらに、2013年からこれまでに約30万人に上る公務員が性的暴行に関する相談に対応できるよう訓練を受けているほか、被害者が簡易的に訴訟を起こせる制度もある。

日本でも、「女性団体などNPOの対応は少しずつ改善している」と、伊藤氏の弁護団の1人で、性的暴行に詳しい西廣陽子弁護士は話すが、それでも対策が遅れていることは否めない。伊藤氏も10月に開かれた外国人記者クラブの会見で、「複数の女性弁護士からは連絡があったが、日本の女性団体から支援するという連絡はなかった。唯一連絡があったのは、イギリスにある女性権利の保護団体だった」と語っている。

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