伊藤詩織さんと元TBS記者の裁判、始まる 空席を見つめた2分間、彼女は何を思ったか
きょうの法廷では、原告側には詩織さんら5人が座った一方、被告側は空席だった。
日本の民事裁判は、お互いが主張と主張をぶつけ合う場だ。だが、実際には、主張は書類の形で提出されて、法廷の場では「陳述します」というだけの素っ気ないやり取りが続く。
第1回口頭弁論には、訴えられた被告側は出廷しないことも多い。本人や代理人がいなくても、答弁書は陳述されたという扱いにできる。
詩織さんは、裁判の冒頭、テレビカメラが法廷を撮影する2分間、身じろぎもせずに、被告側の空席をまっすぐ見つめていた。
このとき、何を思っていたのか――。記者たちの「囲み取材」が終わったあと、そう尋ねた。
もし「相手」がそこに座っていたら…
「一瞬……ここにいらっしゃったら……。私はどういう……、どう感じていたのだろうと思ったりしましたね」
詩織さんの頭をよぎっていたのは、そのとき、もし「相手」がそこに座っていたら……という思いだったという。
街中で似た人を見かけただけで体調が悪くなる、そんな状況下で、相手と直接向き合うのは、精神的な負荷が非常に大きい。事前に「もしかしたら被告側も来るかもしれない」と伝えられ、覚悟はしてきたという。だが、実際には誰も出廷しなかった。詩織さんは「不思議な気持ちだった」という。
「裁判は、お互いに事実を述べ合う場なので、(本人でなくても)どなたかには向き合いたかった……。なので、空の席を見て、少しやりきれないというか、そうですね……。どこに気持ちを向けていいのか分からなくなってしまいました。ただ、意外と、考えていたよりも(席と席の)距離が近かったので、本当にそうだったときのことを考えると……」
原告席から、被告席までの距離は数メートルだ。
詩織さんはこう語る。
「ただ、もしできるのなら目を見て伺いたいと思っていたけれども……」
「自分の目の前で見たときに、お会いしたときに、自分がどういう反応になるのか想像ができなくて……」
2017年5月、顔と実名を公表して被害を告白した。
その声がきっかけとなって、性暴力の被害者支援、刑法の改正、警察・検察のあり方などの多くの議論が巻き起こった。
きょうの法廷にも大勢の傍聴者や記者が集まった。ただ、5月当時の緊迫した記者会見とくらべると、詩織さんは時おり、やわらかな表情も見せていた。空気は変わっただろうか。
「本当に、一番最初の5月に裁判所に来たときの気持ちとまったく違って……。あのときに司法記者クラブで見た顔は、やっぱりすごく『見られている』感じがしたんです。けど、今回は一緒に見守ってくださっている方も沢山いたので、気持ちは全く違うものでした」
詩織さんはこんな風に話すと、裁判所を後にした。
(文:渡辺一樹)
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