毎年1000億円!「休眠預金」は何に使われるか 「忘れられた口座」で社会問題に挑む

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・介護者負担の増加への対応

次に、急速な高齢化に伴う介護者負担の増加への対応である。

日本では65歳以上の高齢者の人口が年々増加しており、内閣府や厚生労働省の資料によれば、2016年10月現在、全人口に占める高齢者の割合は約3割で、その数は3000万人にも達している。

その内、介護保険制度における要介護者(要支援者を含む)は600万人を超えているが、厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」によれば、こうした要介護者との同居を余儀なくされている家族は多く、その約7割が悩みやストレスを抱えているとのことで、介護者負担の増加は深刻な社会的課題の1つとなっている。

休眠預金の活用範囲には、こうした介護者の精神的負担を少しでも軽減するために、介護者の悩み相談や介護者同士が悩みを共有できる交流の場としてのカフェなどの運営といった活動が想定されている。また、介護者からの悩み相談に対応する人材の育成など、介護者が社会から孤立しないような体制づくりに活用することも想定されている。

上記のほかにも、増加する空き家や古民家などへの対応として、これらを宿泊施設やカフェ店舗などにリフォームし、観光客や若者を呼び込むことを通じて、地域の活性化を図る取り組みへの活用などが想定されている。

このように、今後は有効活用される休眠預金であるが、仮に、自分の預金が休眠預金となり、実際に活用された場合に、自らの預金に対する権利はどのようになるのだろうか。

結論としては、預金者の権利は引き続き保護されるため、心配は無用だ。この点について、休眠預金活用法では、預金者が、金融機関の窓口で休眠預金の支払いを請求すれば、元本と利息に相当する金額の支払いを受けることができるとされている。これは、休眠預金口座を相続した場合であっても同じ取り扱いとなる。

透明性の高い活用の枠組みを構築することが重要

一見するといいことずくめのようにも思える休眠預金の活用であるが、もちろん課題もある。

たとえば、資金使途の透明性の確保が挙げられる。休眠しているとは言え、活用される預金は、元を辿ればわれわれ国民の財産でもあることから、不正に活用されていないかなど、使途をきちんと把握することが重要となる。現在、政府では、休眠預金活用の具体的スキームやその活用成果の評価基準などの検討を行う会議の様子をHPにて公開する取り組みなどを行っているが、いまだ道半ばである。

実際に休眠預金の活用が開始されるのは2019年秋ごろの見込みだが、それまでに、休眠預金に対する国民の認知を高めるとともに、透明性の高い活用の枠組みを構築することができるか、今後の動向が注目される。

藏原 千咲 みずほ総合研究所 調査本部金融調査部 研究員

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くらはら ちさき / Chisaki Kurahara

2011年中央大学法学部卒業、同年みずほ銀行入行。法務部等を経て、2017年よりみずほ総合研究所において国内金融制度および欧米金融規制動向の調査に従事。

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