部活動ばかりする「名ばかり大学生」の実態 「教育困難大学」は学力無視で入学させている
2人は席に着いた途端、スポーツバッグの中から菓子パンを取り出して食べ始める。彼らが所属している部活動はかなり強く、全国規模の大学リーグでも近年は新興の強豪として活躍している。部員は寮生活が義務付けられ、そこでは栄養に配慮した食事を毎食出している。しかし、食べ盛りの10代にとっては、2時間近くの朝練習でしっかりと体を動かした後は、まだまだ空腹でたまらないのだろう。この教員は授業中の飲食を許さないのを知っているので、講義が始まる前にものすごいスピードで食べている。
授業が始まった後から、ぱらぱらと学生が教室に入ってくる。全員スポーツウエア姿で、自分の席に着くと大きなスポーツバッグを机の上に置く。すきあらば、バッグの陰に隠れて寝るためだ。彼らの魂胆を理解しているこの教員は、バッグを床の上に置くようにその都度指示を出す。先の2人は間食を終えて、バッグを床の上に置いた。しかし、ノートなどの筆記用具は出されないままだ。そこで、教員は筆記用具を出すようにまた指示しなければならない。
大学に入学はしたが、大学生にはなっていない者たち
授業が始まって10分も経つと、何人かの学生のうなだれた後頭部が見えるようになる。ほぼ毎日、授業開始前と放課後から夜間までの長時間練習をこなしている身では、いくら若いとはいえ体に疲労が蓄積しているのだろうと同情はできる。しかし、大学に、しかも体育学部以外の学部に入ったからには一般教養や学部の専門教養などスポーツ以外の学びも行わなければならないのだ。
教員は授業をしながら「寝るな!」「起きろ!」という注意を繰り返していたが、恐れていたことが起こった。照明を少し落として15分間ほどパワーポイントを使って授業をした後、照明を元に戻してみると、あちこちに机やカバンに突っ伏して爆睡している学生がいるのだ。先の2人も完全に寝てしまい、しかも、1人の学生の口元からは机まで唾液が流れている。
早速、彼らを起こして唾液をふきとるように言ったが、「ふくものがない」と寝ぼけ眼で言う。仕方なく教員が持っているティッシュを貸して後始末をさせる。その間、1度体を起こしたほかの学生たちが再び寝落ちしそうなのにも気を配らなくてはならない。まるでもぐらたたきのようだ。
大学教員には授業中に寝ている学生を放置しておく人が多い。「いくら起こしても寝てしまうし、騒がしいわけではないのでまだマシ」と指導をあきらめてしまっているのだ。教員の指導の足並みがそろわないので、注意を繰り返すこの教員は、運動部学生からだけでなく顧問やコーチからも「口うるさいヤツ」と陰口をたたかれている。しかし、先に挙げたような学ぶ気のない学生の姿は授業の雰囲気を壊し、少数ながらも存在する向学心のある学生を失望させてしまう。教員として教育を重視するからこそ、口うるさく注意しているのだ。
生活のほとんどを部活動に費やし、ほかの勉強には興味・関心を示さない学生たちのことを「大学に入学はしたが、大学生にはなっていない者たち」と、この教員は断言する。スポーツの指導過程で顧問や先輩への礼儀を教えられていると思うが、なぜかそれが目上の人や教員への行動には拡大しない。あくまでも、自分の所属する部活動にかかわる世界だけのものととらえている学生が多いようだ。
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