ミニ新幹線25年「フル規格」求める山形の今 地元で待望論加速「奥羽新幹線」の課題は

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山形市街地。右側に見える百貨店は、2018年1月の閉店が決まっている(筆者撮影)

身近なところでも、山形市や沿線が今後、どのような変化に直面していくかかが気がかりだ。山形―仙台間は高速バスで片道930円、1時間余りで行き来でき、平日は90往復近い便が走る。乗客には定期券利用者も目立ち、山形市一円が仙台都市圏に呑み込まれかけているようにも見える。最盛期には4つあった市内の百貨店は2つに減り、そのうち駅前に建つ1店は、人口減少や競争激化、耐震基準への不適合を理由に、2018年1月で閉店する。このような環境下、奥羽新幹線の建設は、将来、どのような地域課題の解決に役立つのか。地元はそれを探り続けることになる。

また、山形新幹線は秋田県南部の利用者も多く、秋田新幹線と奥羽新幹線をどう共存させるか、県境を越えた検討も欠かせない。そもそも、現在の山形新幹線は、盛岡以北の住民にとって、「使いたくてもほとんど使う機会がない」存在だった。

例えば山形市へ出向くには、時間的にも利便性の面でも、仙台で新幹線から高速バスへ乗り換えるのが、最も有効な移動方法だ。米沢市に出向くには、福島での山形新幹線乗り換えが有効だろうが、筆者にはその機会もなく、実は今回の講演で、初めて山形新幹線を利用し、山形―新庄間のみ乗車した。このような現状を、何のため、どう変えていくか。ひたすら「東京まで○分短縮」を目指すのか。それを考え尽くすことが奥羽新幹線の「宿題」の1つと言える。

「ポスト整備新幹線」が目指すのは

筆者は講演で、東海道新幹線は「需要対応型」、整備新幹線は「需要喚起型」をうたった経緯を確認するとともに、奥羽新幹線は「何型の新幹線を目指すのか?」と提起した。また、既に開業した、大都市以外の大半の地域について、観光客の増加など「開業特需」を「新幹線効果」と呼ぶべきでなく、市民の意識改革や地域経営体制のバージョンアップこそが「新幹線効果」になり得るのでは、と提起した。観客の耳と心には、どう届いただろう。

自らが、整備新幹線開業までの長い長い道のりを現地で見聞しているだけに、筆者自身は、冒頭に記したように、「ポスト整備新幹線」に対して明快な立場を見いだせずにいる。日本の将来像も、あまりに不透明だ。しかし、「新幹線さえできれば」という思考停止を伴わない、新幹線をめぐる「脱・昭和」に向けた検討には、協力を惜しまないよう心掛けている。「新幹線を活用できる地域づくりを目指すには、新幹線がなくても生き延びられる地域づくりを目指す必要がある」という仮説を抱いていることが理由だ。「新幹線学」など学際的な枠組みをつくる必要性も感じている。

開業を目指すさまざまな必死の模索は、「ポスト整備新幹線」時代までのどこかで、何らかの形で必ず実を結ぶように思う。四半世紀前、ミニ新幹線という新たな姿を編み上げた人々の、さまざまな知恵と工夫は、今なお刮目(かつもく)に値する。今後の活動を引き続きウオッチしていきたい。

櫛引 素夫 青森大学教授、地域ジャーナリスト、専門地域調査士

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くしびき もとお / Motoo Kushibiki

1962年青森市生まれ。東奥日報記者を経て2013年より現職。東北大学大学院理学研究科、弘前大学大学院地域社会研究科修了。整備新幹線をテーマに研究活動を行う。

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