トランプはインド太平洋戦略を曲解している 日本が中国への対抗策を提案したのに・・・

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日本、中国、韓国と訪問先で首脳を相手に貿易不均衡の是正や米国の軍需品の購入を求め、肝心のAPECの場で、マルチの協議を否定し自国の利益追求を前面に出して二国間の取引を働きかけるトランプ大統領が、「インド太平洋戦略」の意味をまったく理解していないことは明らかだった。日本外務省幹部も「言葉は使ってくれたが、対中戦略としてどういう意味を持っているかなど、大統領は理解していない」と話していた。

中国は豊富な資金力で各国に働きかけ

中国はすでに豊富な資金力に物言わせて、東南アジア諸国を中心に道路などインフラ整備に積極的に取り組むほか、中国企業も各国に進出している。当然、中国の取り組みを歓迎する国が増えている。一方の日米印豪の4カ国はどうするのか。4カ国の参加する共同軍事演習や戦略対話など、安全保障政策上の動きが多少は目につくが、地域の中小国への関与をどうするのか具体策は見えてこない。

ASEAN(東南アジア連合諸国)の置かれてきた立場は複雑だ。カンボジアやラオスのように明確に中国寄りの姿勢をとっている国もあるが、多くは大国の間を巧みに渡り歩いて生き残っていくしかない国々である。したがって、「民主主義」や「市場経済」という理念はともかく、実利を求め動いていかざるを得ない。まさに構想力と実行力が問われるフェーズになっているのである。

つまり、中国の「一帯一路」と、日米の「インド太平洋戦略」は、この地域での「陣取り合戦」なのである。米国を中心に民主主義や市場主義を掲げる勢力が力を維持するのか、独自の世界観や国家観をもって米国中心のシステムに挑戦しようとしている中国が影響力を増すのか。そんな重要なタイミングで、自国の利益の追求にしか関心を持たないトランプ大統領が主要プレーヤーでは、珍しく日本がリーダーシップを発揮した戦略が成果を上げるのは難しそうだ。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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