トランプはインド太平洋戦略を曲解している

日本が中国への対抗策を提案したのに・・・

安倍首相は第1次内閣でも似たような構想を打ち出した。それは「自由と繁栄の弧」というもので、やはり自由や民主主義、市場経済などを掲げ、北欧からバルト三国、中央アジア、インド、そして東南アジアをつなぐ弧の形をした地域の各国にさまざまな支援をして政治的、経済的安定を促進するとしていた。「インド太平洋戦略」も同じような発想から生み出されている。

二つの戦略に共通しているのが「冷戦的発想」である。「自由と繁栄の弧」が中国とロシアを、「インド太平洋戦略」が中国を強く意識した、ある種の包囲網を作るという発想であることは言うまでもない。日米同盟関係を基盤に、そのほかの国々との連携を強化し、アメリカを中心に作られている現在の国際秩序や経済システムに挑戦する勢力に向き合おうという発想である。

日本政府は、中国が打ち出した「一帯一路」政策の狙いを、単に経済だけでなく政治や軍事的にも中国がインド洋からアフリカ地域まで影響力を強めていくことと分析している。特に中国が重視しているのが軍事的側面だとみている。南シナ海のサンゴ礁を埋め立てて軍事基地化したことと連動して、インド洋沿岸国、さらには中東やアフリカの海に面した国々との関係を強化して、この地域に強い影響力を持つ人民解放軍の「外洋艦隊」(Blue Water Navy)を構築することを目標としているとの認識だ。

そのためにはインド洋につながる国々との関係強化も不可欠であり、途上国のインフラ整備などを前面に出している「一帯一路」政策は中国の安全保障政策を補完する重要な役割を担っているとみている。ゆえに、中国のこうした戦略に対抗する必要があるとして、打ち出したのが「インド太平洋戦略」なのだ。

米国はアジアに対する包括的な政策を欠く

一方の米国だが、1月に発足して以後、トランプ政権が打ち出したアジアに関する政策はTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱くらいで、北朝鮮の核・ミサイル開発問題への対応に追われ続けている。そもそも国務省でアジア地域を担当する次官補がいまだに空席で、新たな対アジア政策の検討ができない状況だった。

今回のアジア歴訪に際しても、米政府の関心は、トランプ大統領が常日頃、主張している北朝鮮問題と訪問する日中韓3カ国との貿易不均衡問題だった。APEC首脳会議や東アジアサミットなどアジア諸国の首脳が一堂に会する会議が予定されているにもかかわらず包括的な政策は空白状態だった。

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