中国の不動産バブルは崩壊するか? 歴史上、最大級の不良債権の可能性

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融資残高の対GDP比危険水準はどこか

では、中国の不動産価格の崩壊は本当に生じるのだろうか? それを判断するには、現在の状況がバブルか否かを判定する必要がある。しかし、その判定は一般に容易でない。

理論的に言えば、ファンダメンタルズの不動産価格は、無限の将来に至る不動産賃貸料総額の割引現在値で与えられる。不動産賃貸料が将来に向かって一定であれば、これは、「不動産賃貸料/金利」によって与えられる。そして、実際の不動産価格がこの式から大きく乖離していれば、バブルということになる。

しかし、成長率が高い経済では、賃貸料も上昇する。だから、現在の賃貸料を用いて右の式を計算し、その値が現実の不動産価格と比較して高い値になったとしても、バブルとは言えないわけだ。

不動産価格と所得の比率も、しばしば用いられる指標である。しかし、経済成長が続けば所得も上昇する。したがって、この比率が高くても正当化される。中国の不動産価格の上昇率が高いのは事実だが、経済成長率が高いことを忘れてはならない。

そこで、経験則的な指標を目安にして、バブルか否かを判断することとしよう。このためにしばしば用いられるのは、金融機関による融資残高の対GDP比だ。不動産のバブルは、ほとんどの場合に金融緩和下で生ずる。投機資金が低いコストで容易に調達できるからだ。したがって、融資残高の対GDP比が一定の値を超えると、「過剰流動性」の状態になり、投機が行き過ぎて不動産バブルが崩壊し、不良債権が発生する可能性が高くなると考えられる。

この際重要なのは、銀行による正規の貸出だけでなく、非正規のチャネルをも含めた総融資残高を考えることだ。1980年代の日本では、銀行が子会社として設立したノンバンクを通じた融資が増大した。07年頃までの米国では、銀行子会社が住宅ローン(モーゲッジ)の証券化商品への投資を通じて資金を供給した。これは「シャドーバンキング」と呼ばれた。そして中国では、前回述べた中国型シャドーバンキングだ。

以上の仮説が正しいか、またクリティカルな水準はどの程度かを、日本と米国の経験で見てみよう。

日本では、80年代後半に不動産価格のバブルが生じた。銀行とノンバンクを合計した貸付残高の推移を、地価の推移とあわせて示すと、図のとおりである。80年代末に残高が急上昇し、これに合わせて地価が上昇していることが分かる。

不動産価格バブルが崩壊したのは91年だ。この時の貸付残高は約832兆円だった。これは91年の名目GDP474兆円の1.76倍になる。

米国では、07年に金融危機が顕在化した。FRB(連邦準備制度理事会)の資金循環統計によれば、このとき金融機関の総融資残高(貸出とモーゲッジの合計)は18.2兆ドルであった。これは、07年の名目GDP14.5兆ドルの1.26倍である。

以上のことを勘案すると、総融資残高がGDPの1.5倍程度を超えると、バブル崩壊の危険があると考えることができる。

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