実際、栗氏の全人代トップ就任は、習氏が政治的野心を達成するうえで、カギとなるかもしれない。国家主席の任期は2期までと憲法で定められており、これが習氏の野心を阻む最後の障壁となっている。
たとえば「総書記」のように、習氏が共産党内で最高位の役職に就くのを阻むものは何もない。だが、中国の国家元首であり続けるには、憲法改正が必要だ。腹心の栗氏が全人代を掌握していれば、憲法を変えることなど楽勝だろう。
中国社会は様変わりしている
もう一人の側近、趙楽際氏は、69歳の王岐山氏の後任として腐敗取り締まりを行う中央規律検査委員会のトップに就任する。共産党の綱紀粛正を担う要職だ。習氏の反腐敗運動の陣頭指揮を執ってきたのが王氏であり、同氏の下で習氏の政敵は次々にパージされ、習氏の権力基盤が強化されてきた。反腐敗運動のトップに側近の趙氏を据えることで、習氏は共産党幹部全員に警告を発したと見てよい。
圧倒的な権力を手にした習氏が今後、国粋主義に裏打ちされたハードな独裁体制を敷くのではないかとの観測が一気に強まったのは当然のことだ。その可能性はある。だが、これは保証されたような話では、まったくない。
理由は簡単だ。中国共産党内部の権力構造は過去数十年間、ほとんど変化していないが、中国社会は毛沢東氏や鄧小平氏の時代とは様変わりしている。共産党が掲げる公式の政策を本気で信じている中国人はまずいない。共産党員ですら、そうだ。経済の6割は民間セクターが担っており、一般の中国人の日常生活において、中国共産党は事実上、意味を失っている。
これこそが、習近平時代における権力のパラドックスである。確かに中国において、習氏はここ何十年かで最も強大な権力を手にした指導者だ。だが、中国社会を形づくる能力についていえば、習氏の力は限られている。その力は習氏と同氏の側近、そして外部の中国ウォッチャーが考えるより、はるかに小さいかもしれないのだ。
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