トランプ大統領ごり押し「税制改革」の危うさ 独りよがりな議会戦略の末路
もう1つは、制度的な制約である。共和党だけで税制改革を実現するためには、議会で特別な手続きを踏む必要がある。その結果として、恒久的な税制改革を行うことは難しくなる。
共和党が利用しようとしているのは、財政調整法という手続きである。この手続きを使えば、上院での審議は過半数の賛成で進められるようになる。これに対して、通常の議会審議の手続きでは、上院で議事を進めるために60票の賛成が必要になる。これでは、共和党の議員だけでは議事を進められない。
「時限減税」となる可能性も
悩ましいのは、財政調整法を利用するためには、満たさなければならない条件があることだ。たとえば、あらかじめ定められた金額以上の税制改革は実現できない。今回の場合には、10年間で1兆5000億ドルの減税が上限である。また、税制改革が向こう10年を超えて財政赤字を増やすようだと、財政調整法は使えなくなる。
こうした条件を満たそうとすると、税制改革の項目を時限的な措置にせざるをえなくなるケースが出てくる。10年間の減税額を1兆5000億ドルに収め、かつ、10年より先には財政赤字を増やさないようにするためだ。11月2日に発表された下院案では、企業の設備投資に対する優遇税制などが、5年間の時限減税とされている。今後の審議においても、さらに多くの減税項目が、10年間以内の時限減税となる可能性が高い。
時限減税には、2つの問題がある。
第一に、税制改革の効果が歪む。優遇税制が期限付きとなれば、その恩恵を受けようとする企業などは、経済活動のタイミングをずらしかねない。たとえば、設備投資の優遇策が5年限りなのであれば、6年目以降に予定していた設備投資を前倒しする動きが想定される。目先の設備投資は盛り上がるにしても、合理的な経営判断から逸脱していないともかぎらない。優遇税制が延長される可能性も排除できず、企業は長期的な視点での対応が難しくなる。
第二の問題は、将来的な混乱の材料になりうることだ。議会共和党は、「あまり時限減税の利用を気にするべきではない」と主張している。時限減税とはいえ、納税者からすれば、減税の打ち切りは実質的な増税である。政治的には受けが悪く、「期限が来れば減税は延長されるはずだ」というわけだ。
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