トヨタ、連続減益を回避しても喜べない理由 円安追い風だが、北米市場の戦いがカギ握る

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最も収益を悪化させた震源地は、ドル箱の北米だ。今期の販売台数予想は279万台。今夏から主力セダン「カムリ」を全面改良して本格投入したが、前期実績に届かない計画だ。新車市場がピークアウトした米国市場では販売競争が激化。販売店に支払う値下げ原資となる販売奨励金(インセンティブ)などの費用で約1500億円の減益要因となる。

トヨタは北米で売れ筋のSUV「ハイランダー」の生産能力増強を急いでいる(写真:トヨタ自動車)

さらに原油安を受けて売れ筋車種がトヨタが得意とするセダン系乗用車から、SUV(多目的スポーツ車)やピックアップトラックなど大型車へのシフトが進んでいることも逆風だ。2017年1~10月の米国の新車販売は、乗用車が前年同期比10.4%減少する一方、SUVやピックアップなどの大型車は4.3%増加した。

乗用車の中古車価格下落も響く

米国では乗用車の中古車価格も下落している。足元では数年経ってリース期間の満了した乗用車が中古車市場に大量に流入。中古車市場でも人気が乗用車からSUVにシフトしていることから、乗用車は飽和気味だ。その結果、リース開始時に顧客に約束した下取り価格とリース満了時の市場価格との差は大きく、トヨタを含む自動車メーカー各社の利益圧迫につながっている。永田副社長は「今後2、3年は乗用車の市場は厳しい」と認める。

もっともトヨタも手をこまぬいているわけではない。リース期間満了時の残価設定の適正化を進めるなどしているほか、インセンティブも大幅抑制に動いている。大型車人気が高まっているが、決してセダンを見捨てたわけではない。カムリは新型車効果もあり、9月のインセンティブは1台あたり2953ドルと前年同月比で22%減少している。

トヨタの米国ロサンゼルスの販売店。SUVなど大型車の需要増にどれだけ対応できるかが、北米事業だけでなく、会社全体の収益改善も左右する(編集部撮影)

永田副社長も「カムリは客からの評判が大変いい。インセンティブの改善にも寄与していくとみている」と期待を寄せる。カムリは乗用車販売台数で全米ナンバーワンを記録してきた基幹車種だ。2016年には39万台近くを売り、トヨタブランドの新車販売台数の35%を占めた。今年1月に開催された米デトロイトショーでは豊田社長自ら登壇して新型車を紹介するほどの力の入れようだ。

永田副社長は「北米の消費マインドは冷えていない」と強調。市場が好む車種へのキャッチアップも急いでおり、「ハイランダー」や「RAV4」、「タコマ」などSUVやピックアップトラックの生産能力増強を積極化。こうした施策で下期から来期に向けて北米での収益改善をしたい考えだ。

トヨタはグループの今期総販売台数に1025万台を掲げる。前期比横ばいの中、北米で収益性の高い車種の販売をどれだけ伸ばせるか、本業の実力が問われている。来年春、トヨタが2期連続の減益を回避したと胸を張ることができるか、厳しい戦いが続きそうだ。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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