「石炭火力」偏重が日本に負の影響を与える ESG投資で注目、「環境情報開示」創始者が警鐘
――CDPのスコアで最上位のAリストに選定されることを多くの企業が目標としている。
2017年の調査で、気候変動分野では全世界で112社がAリストに選定された。Aリストは前年の193社から減少した。これは、Aリスト選定の条件とされる点数のハードルを引き上げたためだ。前年と同じレベルの開示努力ではAランクを維持するのは難しいことを意味している。オリンピック競技のように、これまでと同じ努力では金メダルを取ることはできない。
――日本企業の情報開示のレベルについて、どのように評価しているか。
日本企業の開示は非常に進んでいる。2017年に気候変動分野でAリストに選定された日本企業は13社(全世界で112社)、水分野では12社(全世界では73社)あり、地球環境保護に対しての日本企業の思慮の深さに敬意を抱いている。ただ、日本の産業界は困難な問題に直面している。脱炭素化を進めるうえで、使用する電力の炭素集約度が高い(消費電力当たりの温室効果ガスの排出量が多い)という問題がある。
――日本の電力会社は再生可能エネルギー拡大への取り組みが遅れているうえ、産業界の間では、炭素税の本格導入などカーボンプライシングへの反対論が根強い。
日本の産業界は、目先の痛みを回避することに目が向きがちで、長期的なリスクを見据えて対処することに消極的に見える。日本が低炭素技術を用いてイノベーションを起こすことに向かわなければ、長期的には大きな困難に直面する。
このたび発表された2017年の年次報告によれば、温室効果ガス排出について前年よりも増えたと回答した日本企業が、減ったと回答した日本企業よりも多くなっている。日本では発電電力量に占める石炭火力発電の比率が高いため、製品の生産量が増加すると二酸化炭素の排出量が増加してしまう。化石燃料を基にした電力を使用するかぎり、この問題から抜け出すことは難しい。再生可能エネルギーが普及しているとも言いがたい。
グローバル企業のほうが視野が広い
――現在のように電力分野で二酸化炭素排出量の高水準の状況が続くと、企業によるスコア向上の妨げにならないか。
当然、妨げになる。海外では企業が温室効果ガスの排出係数の小さい電力を選んで購入することができる。それがスコア改善につながる。しかし日本ではそれが極めて難しい。将来を見渡した場合、消費者は炭素集約度の高い製品を買わなくなる可能性が高い。そうなると、温室効果ガス削減の取り組みで遅れた企業は競争で負けてしまいかねない。
そうした状況を打開するために、政策の見直しを政府に働きかけるべきだ。米国を見ても明らかなように、グローバルに展開する企業のほうが、パリ協定の脱退を表明した政府よりも視野が広い。
安全保障上の脅威でもある気候変動に対して、企業にはリーダーシップを発揮して取り組む内在的な力がある。私はそのことを信じている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら