JR秋葉原駅の高架下が「異空間すぎる」理由 飲み屋街は古い?趣向凝らす鉄道各社の戦略

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よく見ると、どの店にもアルコールはほとんど置かれていない。その理由は、「駅周辺のお酒が飲める店との差別化を図るため」(西村氏)。つまり、周辺の商店街と競争するのではなく、共存を図ろうとしているのだ。

昔のゴールド街のイメージが強すぎたのか、誘致しようとしたテナントにビーンズ阿佐ヶ谷のコンセプトがなかなか理解してもらえず、出店を躊躇した企業も少なくなかった。「およそ130社にアプローチしたが、その半分には話も聞いてもらえなかった」(西村氏)。しかし、完成した“街並み”を見て、「こんなふうに完成するなら、出店しておけばよかった」、と残念がった企業もあったという。

南海電鉄・なんば―今宮戎間の高架下を開発した「なんばEKIKAN」。飲食店に加え、スポーツ関連ショップやクライミングジムまである(記者撮影)

歩きたくなる高架下の大成功例が関西にもある。南海電気鉄道・なんば―今宮戎(いまみやえびす)間の高架下を開発した「なんばEKIKAN」だ。なんば駅周辺には「なんばパークス」や「高島屋」といった大規模な商業施設があり、高架下は商業施設としては不利なエリアだった。しかし、趣味性の高い店舗を集積し、感度や趣味の似た人々が交流できるようにすれば付加価値を高めることができる、と考えた。

「なんばEKIKAN」の店内には、高架下の構造物が残されている(記者撮影)

そこでレストラン、カフェに加え、家具、DIY、さらに自転車、スキューバダイビングなどのスポーツ関連ショップを誘致。2014年から段階的に開発を進め、今秋の第4期開発では、高さ最大4mのボルダリング施設を備えるクライミングジムが入居した。趣味性の高い店を集めるという狙いは当たり、休日には行列ができる店も現れるほどの人気だ。

なお、南海電鉄はなんば―今宮戎間に宿泊施設を2018年2月に開業すると11月1日に発表した。「高架下における宿泊施設の開発は当社初」(同社)というが、鉄道業界でもこうした例はあまり聞かない。高架下開発の新たな方向性として注目されそうだ。

高架下は「宝の山」ではない

大都市圏には多くの鉄道路線が走っており、高架下もたくさんある。では、再開発が可能な「宝の山」が至る所にあるかというと、そうでもない。

たとえば、西武池袋線・富士見台―練馬高野台間の高架下にある医療モール「練馬高野台駅メディカルゲート」。高架下に内科、小児科、調剤薬局などの医療施設を誘致したのはグッドアイデアであり、ほかの駅間の高架下にも展開可能なようにも見える。しかし、練馬高野台駅の近くには順天堂大学の付属病院があり、風邪などのちょっとした病気は医療モールで、より難しい病気は大学病院でと役割分担すれば、沿線住民にメリットが大きいという判断からこの地が選ばれた。どこの駅間で可能というわけでもなさそうだ。

商業施設にしても、列車の運行に支障のないよう工事ができる高架下は限られる。JR東日本の例でいうと山手線では上野―新橋間、中央線では高円寺―吉祥寺間が開発候補になりうる高架下のようだ。

かつて見慣れた高架下の光景が減っていくのは残念ではあるが、知恵と工夫を凝らして地域に根差した高架下に生まれ変わるのは悪い話ではない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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