その頃に入った蕎麦屋で見た、印象的な光景がある。老夫婦と見える2人がニコニコと笑い合いながら仲良く蕎麦を食べていたのだ。私にはこの世界がない、こういう暮らしがしたかった――。
帰宅して娘の美香さんに正直に話すと、思いもよらない感想と反応が返ってきた。
「お年寄りの男女が笑い合っていた? それって夫婦じゃなくて、昨日会ったばかりの恋人同士じゃないの? 最初の頃のデートなら誰だって笑うよ。ママもそういう相手を見つければいい」
どうやって相手を見つける?
冷静かつ温かい指摘である。娘の応援を得て、恭子さんもその気になった。しかし、現在の50代は「結婚するのが当たり前」だった世代だ。独身男性がどこにいるのか見当もつかなかった。
ちょうどその頃、恭子さんが勤務する会社で結婚を決めた女性がいた。聞けば、「婚活」なるものをしたらしい。
「婚活って何?と思いました。しかも、ネットで出会ったというんです。私の年齢では『出会い系サイト』というイメージしかないのですが、今はネット婚活が普通らしいですね。実際に同僚の旦那さんともお会いしましたが、よくぞ知り合ったと他人の私がうれしくなるぐらいお似合いの夫婦でした」
そこで恭子さんも婚活をすることにした。大手の結婚相談所を訪ねて比較し、優しくて信頼できるカウンセラーがいると感じたところに登録したのだ。休会期間も含めて2年間在籍し、20人以上の男性とお見合いすることができた。相手も50代ばかりだったという。
「コミュニケーション能力が高く異性として惹かれる男性もいました。でも、そういう男性はいろんな女性をキープできる立場にいます。月イチしか会ってくれず、先に進むのは難しいと感じました。バツイチで子ありの私は条件が悪いんです」
それでも20人以上の同世代男性と会えて、月イチでもデートにつなげられたのはすごいと筆者は思う。婚活中のアラフォー女性から「こちらから申し込んだ男性からはすべて断られた」という体験談を聞くことが多いからだ。恭子さんの婚活は恵まれていると思う。
適切な結婚相談所とカウンセラーに恵まれたおかげなのか、おっとりした雰囲気で聞き上手な恭子さんの魅力が高いのか、経済的に自立している恭子さんが「高望み」をしなかったからなのか、それとも50代以降の婚活は30代や40代に比べると男性優位の傾向が薄れるのだろうか。今度、恭子さんを担当したカウンセラーにインタビューしてみたい。
ただし、恭子さんが幸太郎さんに会ったのはこの結婚相談所を介してではない。業者主催の婚活パーティでの出会いだった。その前に、幸太郎さんの話を聞いておきたい。
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