司法書士に転身した近鉄ドラフト1位の軌跡 清原の「外れ1位」、桧山泰浩の異色キャリア

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野球の世界だけで生きられる人間などほとんどいない。そのときに頼りになるのは何か。桧山の場合は、学力であり、試験勉強の経験だった。

「そもそも、日本の高校球児が勉強をしないということがいちばんの問題じゃないでしょうか。野球の強い野球学校に入ったら、勉強はそっちのけで野球ばかり。学生の頃に勉強したことがないから、自信がないんですよ。だから、野球界にしがみつく。制度の問題だと思います。高校生にはちゃんと勉強させないと」(桧山)。

現役引退後にチームに残れるのはひと握り

全国には野球部のある高校が4000校近くある。そのなかで甲子園に出られるのは、多くても49校だ。野球の実績だけで進学することも、就職先を探すことも簡単ではない。なのに、野球優先の生活を送る選手は数え切れないほどいる。「勉強しなさすぎです。ガリ勉をしろと言っているわけないですよ。普通の学生くらいの勉強はさせないと。野球の練習が授業だという学校もあると聞きます。そういう高校には勝ち上がってほしくない」(桧山)。

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現役引退後に監督やコーチとしてチームに残れるのはほんのひと握りだ。

「プロ野球経験者のほとんどは、いずれ野球とは別の世界に行かないといけない。そうなることは頭のなかではわかっていても、現実は見たくない。

勉強のべの字も知らないから、自信が持てないんです。プロ野球で実績を残した選手でもそうなんですから、私みたいに活躍できなかった人間はしっかりと自分で考えないといけない。将来を約束された人間なんかいませんから」(桧山)。

力の衰えを自覚した選手も、能力の限界を悟った人間も、1年でも長くユニフォームを着たいと思うもの。だが、その執着が未来への一歩を遅らせることにもなる。「早いほうがいいんです。早く自分で見切りをつける勇気も大事なんですよ。球団も、ダメだと思う選手は、クビにしてやったほうがいい。それが親切心です」と最後に桧山は語った。

1つのことに打ち込むことは尊い。その経験を通じて得るものもたくさんある。だが、もっと広い視野で自分を見つめることが必要なのではないか。思いだけでは世間を渡ることはできない。才能がなければ知恵をつけろ、知識を増やせ――元プロ野球選手として異色のセカンドキャリアを進む桧山はそのことを教えてくれる。

(文中敬称略)

元永 知宏 スポーツライター

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もとなが ともひろ / Tomohiro Motonaga

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。直近の著書は『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、同8月に『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)。19年11月に『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長。

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