「でも、まったくうまくいきませんでした。お見合いは通過するんです。会って1時間くらいなら相手と楽しく話をすることができる。ところが、お付き合いに進展して、2~3度食事をしていくうちに断られてしまう。今思えば、あの頃の僕は、女性と表面的な話しかしていなかった。自分の感情を見せるのが恥ずかしかったし、見せて振られたらもっと恥ずかしい。当たり障りのない会話しかしないから、会っていくうちに話題が尽きてくる。女性は僕に人間的な厚みを感じなかっただろうし、男として魅力的ではなかったのだと思います」
今の巌だから言える言葉だ。
損得感情なしにまずは与えないと、人は動かない
そんな巌が大きく変わるきっかけは、会社の管理職研修でコミュニケーションスキルを学んだことにあった。
「外部から講師の先生がきて、部下を育てるにはどうしたらいいのか、人を動かすミュニケーションスキルを上げるための講座でした。中でも自分がいちばん腑に落ちたのは、ギブ・アンド・テイクという言葉の意味。テイク・アンド・ギブではないんです。まずは与えるところから始めないと人は動かない。それも損得感情を考えていては、人の心は動かせない。これって、ビジネスだけではなく恋愛でもそうだと思ったんですよ。それまでの僕は、自分が傷つくのが嫌だとか、この人と付き合って何の得になるんだろうとか、そんなことばかりを考えていた。女性に本当にモテる人って、男からも人気がある。それは損得感情なしに、人に優しさや思いやりを与えられる人だからなんですよね」
もう1つこの講座から学んだこと。それは、コミュニケーション能力が生まれながらに高い人もいるが、スキルを学ぶことによってもコミュニケーション能力を高めることができるということだ。この講座を受けて、自分が変わったのが実感できたという。そこで、もう1度本格的に婚活をしてみたくなり、私を訪ねてきた。
巌は半年間で、20回近いお見合いをした。相手からお断りをされると、「その理由を聞いてほしい」と言っていたので、断られたお見合いに関しては相手の相談室にその原因を聞き、巌にフィードバックした。
中には、「いい人なのはわかるが、男の人として好きになれないと思った」「気が利きすぎるので、それがかえって重荷」「いい年をして幼稚なLINEのスタンプを多用する」など、彼に非があるというよりも、単に好みの違い(わがまま?)ではないかという理由もあったが、それが男女の相性であり縁なのだろう。
男と女は凸と凹で、あきらめることなく前向きな気持ちで出会い続けていれば、パズルのように必ず合うピースを見つけることができる。
巌は活動して半年後、今の妻である千恵(35歳、仮名)に出会い、3カ月の交際を経て、成婚退会していった。
巌はしみじみと言った。
「昔の僕は、自分の気持ちをいつも抑え込んでいました。寂しくても、そういうことは言っちゃいけないから黙っていよう。不愉快でも、不平不満は言わない。それで余計な摩擦を生んだら、自分が疲れるだけだから、と。だけど、こちらが本音を見せないと、相手も心を開いてくれない。今思えば恋愛本に書いてあったテクニックは、お見合いを通過させるには有効だったけれど、そこからの関係を育てていくには、何の役にも立たなかった。恋愛や結婚にとっていちばん大事なのは相手を大切に思うこと、そして相手のいいところも悪いところも、すべてを受け入れることではないでしょうか」
何十回とお見合いしても結婚できない人たちは、見合い相手にダメ出しばかりしていないだろうか。目の前の相手には、まずは自分が何を与えられるのかを考えてみてほしい。巌が気づいたようにギブ・アンド・テイクの精神を忘れないでいてほしい。
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