まず恋愛を敬遠するようになった理由が育ってきた環境にあると、巌は幼少期を振り返った。
「そもそも両親が人付き合いが苦手。幼稚園の頃、団地に住んでいたんですが、母親が近所付き合いをしているのを見たことがない。父親にはゴルフ仲間がいたけれど、それも接待ゴルフをする関係。一時期社宅住まいをしたこともあって、よそは家族ぐるみでバーベキューをしたりキャンプに行ったりしていましたが、ウチはそれに参加したことがなかった」
父親は転勤族だったので、転校も多かった。小学校2年生から3年生の進級時と4年生から5年生の進級時、中学は各学年で転校し、3つの小学校と3つの中学校に通っている。
「人付き合いが苦手なのに、転校は大変? いや、逆にそれが幸いでした。転校生って珍しがられるので、こっちから話しかけなくてもなんとなく友達ができるんです。僕が失言して仲間外れにされたとしても、転校して新しいところに行けば、人間関係がリセットされるし」
また小中時代は、学校が終われば真っすぐ家に帰ってきて、外に遊びに行くこともなかった。
「クラスでも部活でも薄い友達付き合い。そもそも友達と一緒にいると気疲れするので、出掛けるにしても1人でぶらぶらしていたほうが気が楽でしたね」
高校は都内の私立進学校に入学した。父親の転勤は続いていたが親戚の家に下宿をし、高校は3年間通いとおした。
「男子校だったので、男だらけの世界。クラスに行けば話す人はいたけれど、家に帰ってまで付き合う人はいなかった。校則も厳しくて、喫茶店やゲーセンの出入りは禁止、たばこが見つかったら退学、学業に励むべし。それを守っていると、自然に学校と家の往復になる。たまに本屋に寄ったりもするけれど、塾のある日は塾に行って、帰ってきたらご飯を食べて寝る。クラスには、彼女をつくったり、クラブに行ったりする人もいたけれど、そこは僕には関係のない世界だと割り切っていました」
異性に興味がなかったわけではない
そうかといって、異性に興味がなかったわけではない。
「人並みに女の子は気になっていましたよ。中学生の頃から、近づきたいという気持ちもありました。でも、声をかけても断られるかもしれない。周りに冷やかされるかもしれない。そのリスクを冒してまで、女の子と付き合いたいとは思わなかった」
とはいえ、思春期になれば性欲も出てくるのものだが……。
「それも人並みにありました(笑)。普通ならば、それが生身の女性に向かっていくんでしょうけど、そんな勇気はない。ただ欲望を満たすことなら、いくらでもできるじゃないですか。そこは本やビデオのお世話になっていました」
今やネットをググれば、いくらでもエロ動画を無料で見ることができるが、巌の中高校時代は、性欲を満たす道具はもっぱらエロ本だった。
「最初は本屋に行ってエロ本のコーナーに近づくのもドキドキしたし、手に取ってレジに持っていくのは勇気がいりました。だけど、何回かやっていくうちに慣れてくる。あとは、公園のゴミ箱にたまにエロ本が落ちているんで、そんなのを拾ったり(笑)」
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