クマに襲われた人は、すべて自己責任なのか

人とクマとの軋轢、その歴史は長い

日高山系で起きたワンゲル部員の事故については、ヒグマが執拗に大学生たちをつけねらう様子が亡くなった部員の手記などから明らかにされている。ひとり、またひとりと襲われる読んでいるだけで背筋が凍るような状況下、被害者たちの感じた恐怖や絶望ははかりしれない。

ヒグマの習性を知らなかったことが、悲劇へとつながった面もある。だが、情報を得にくかった時代のことで、被害者たちを責めるのも酷な気がする。せめて、これから山に入る人たちは、本書でも指摘されているこの事故が残した多くの教訓を知っておくべきだろう。

私の勝手な想像だが、大学生を襲ったこのヒグマ、他の登山者による餌付けや残したごみなどで、すでに人なれしていたのではないか?と思えてならない。知床では、観光客の与えた餌がきっかけで町に出てくるようになり、射殺されたヒグマがいた。最近ニュースになっただけでも、青森空港の滑走路、秋田新幹線の線路、飛騨高山の小学校校庭、札幌市街地などにもクマが出没している。

“今や、ヒグマやツキノワグマは深山にのみ住む幻の動物ではなく、私達の身の周りに普通に見られる動物になりつつある。”

人間と野生動物

本書でも解説されているが、人間のテリトリーへの度重なる出没には、自然環境の変化や人間側のライフスタイルの変化などさまざまな理由があげられる。もはや襲われた本人だけでなく、皆で彼らとどうつきあうのかを考えなければならないのだろう。

『人を襲うクマ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

でもたぶん、この問いに完璧な答えは出ない。結局のところ人間と野生動物は、試行錯誤しながら折り合いをつけてゆくしかないのだから。

もう10年以上前になるが、ロシアの自然保護区を訪れたときのこと。地元の人たちは、きのこや蜂蜜など、森の恵みを存分に楽しんでいた。自然保護官にヒグマの人身事故について質問したときに返ってきた答えが、忘れられない。

「ヒグマの事故は、あるよ。でも、交通事故で年間何人が死んでる? それでも車をやめようなんて、ならないだろう? なんでクマには感情的になるのか、僕にはわからないね」

――ここまで割り切るのも、また、難しい。

※本書でも紹介されている、日本クマネットワーク「クマ類人身事故調査マニュアル」はこちら

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カーリング人気萌芽の時代から、平昌五輪での銅メダル獲得まで戦い抜いてきた著者。リーダーとして代表チームを率いつつ、人生の一部としてカーリングを楽しめるにまで至った軌跡や、ママさんカーラーとして子育てで得た学びなどを語る。