東京の不動産、「大暴落論」は全く根拠がない 現在の価格が「バブル状態」とは言えない理由

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中小規模のデベロッパーも、リーマンショックの反省を生かしている。かつてのように新築マンションに過度に傾倒したり、ファンドなどに賃貸マンションを建設・販売するような新築依存にはなっていないところが多い。地方都市の県庁所在地などに主戦場を移したり、中古マンション再生や仲介、介護事業などに事業ポートフォリオを多角分散させるなどしており、以前に比してかなり慎重な経営姿勢を見せてもいる。

リーマンショック前には、高騰する地価を受けて都心から離れ、都心から30kmから40km圏内の、いわゆるかつてのベッドタウンにまで新築マンション事業が行われていた。しかし、多くの市場プレーヤーにはまだリーマン・ショックの記憶が残っており、以前に比してこうした開発にはかなり慎重だ。

一般に「バブル崩壊」といえば、相場から著しく乖離して上昇した資産価格が、何かのきっかけではじけてしぼんでいくというイメージを持つ人が多いだろう。また、「暴落」といえば、現在の価値から、半値やそれ以下になるという状況を想定するものと思われる。一部では「都心湾岸のタワーマンションは現行の坪300万円台から100万円台に暴落する」といった見解もあるようだが、そうなる可能性はほとんどゼロだ。

その理由は、不動産価格の裏付けとなる「賃料」を考えれば分かる。仮に都心湾岸地区の賃料が3分の1に落ちるなら、そうした暴落はありうる。しかし、ほかの先進国に比しても日本の不動産賃料は下方硬直性が高い。それが、短期のうちに3分の1に下がる可能性はほぼゼロあり、したがって坪100万円台になる可能性も、ない。

「爆売り」といった状況は見られない

なぜこれほどまでに暴落論が語られるのか。2012年に中国人が買った新築マンションが、譲渡所得が大幅に税制優遇される5年の期限が切れることを境に一斉に売りに出されるという連想が働いているのかもしれない。しかし、長期譲渡として認定されるのは原則として「引き渡しから5年」である。タワーマンションは契約から引き渡しまで、1年から2年、場合によってはそれ以上かかるものも多い。確かに、中国人を中心とした外国人のいわゆる「爆買い」はかつての勢いを失い、中古マンション市場では売りも出ているが、2017年に「爆売り」とまで言える状況ではない。

また、世界的な視点から日本の不動産市場を見てみると、バブルから程遠いこともわかる。アメリカやカナダ、オーストラリア、アジア諸国の主要都市では、日本市場をはるかに上回るチャイナマネーが不動産市場を席巻、不動産価格の吊り上げが社会問題化している。

中国による対オーストラリア住宅投資は15年時点で42億オーストラリアドル規模(約3700億円)であり、アジアタイムズによれば、過去3年間におけるマレーシアの不動産投資の内、実に46%が中国からの投資である。これに比べれば日本の湾岸タワーマンションへの中国人の投資額などかわいいものだ。資金の引き揚げが起きたとしても、ごく一部の影響にとどまるだろう。日本の不動産市場の先行きについて「バブル崩壊」「大暴落」を心配する状況には、どのような観点から考えてもありえないのである。

長嶋 修 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長)

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ながしま おさむ / Osamu Nagashima

1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社『株式会社さくら事務所』を設立、現会長。以降、さまざまな活動を通して“第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント”第一人者としての地位を築いた。国土交通省・経済産業省などの委員も歴任している。主な著書に、『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)、『「マイホームの常識」にだまされるな!知らないと損する新常識80』(朝日新聞出版)、『これから3年不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版社)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ社)など。さくら事務所公式HPはこちら
 

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