日本流「ホーム乗車位置」は英国で根付くのか なぜか不満の利用者も…その理由は?
そのような点から、地下鉄であれば乗車位置目標を定めやすいともいえるが、1つ言及しておかなければならないのが「自動運転装置」の存在である。
意外と知られていないが、今回ホームに乗車位置目標のペイントが施されたビクトリア線は、世界初の自動運転装置(ATO)を実用化した鉄道だ。1969年の公式開業式典では、若かりし日のエリザベス女王が記念列車の運転室に添乗し、発車ボタンを押してグリーンパーク駅からオックスフォードサーカス駅までの1区間だけ走行した。
現在も同線では、運転士は原則的には前方の監視およびドア操作のためだけに乗車しており、ドアの確認が終わったら発車ボタンを押すだけである。電車は、発車するとまるで横へ移動するエレベーターのごとく、正確に次の駅の停止位置に停車するわけだ。同線に乗車位置目標を最初に導入した理由は、こんなところにもあるといえるだろう。
なお、現在はロンドン地下鉄で最も新しいジュビリー線や、セントラル線にも自動運転装置が導入され、ジュビリー線の一部区間にはホームドアも設置されている。信号システムの更新が完了すれば、いずれロンドン地下鉄の全路線に導入していく計画だ。
手動運転だからといって大きく停車位置が外れることはないだろう、という反論もあろう。しかしそう考えるのは早計で、手動で運転している他の路線を観察していると、実は運転士によって停車する位置はかなりまちまちなのがわかる。
前述のとおり、そもそも運転士が目安とする停止位置目標も「だいたいこの辺」という程度のもの。いくらホームの長さが限られた地下鉄でも、1mくらい前後するのは日常茶飯事だ。いかに日本の鉄道の運転士が、正確無比に運転しているかがわかるだろう。
乗車位置表示に不満の理由とは?
このキングスクロス・セントパンクラス駅の乗車位置目標表示については、とある利用者がソーシャルメディアを通して不満をこぼしたことも話題となっている。いったい何が不満なのだろうか。
実はこの利用者は、普段、列車が停車する場所を覚えており、これまでもホームにある備品などを目印に、ドアが目の前に来る位置を予測して、つねに列の先頭で乗車することができていた。それが、乗車位置目標が表示されるようになって以来、他の人たちにもドアの位置がわかるようになったため、優位性が薄れてしまったというのだ。
まるで自分のテリトリーが侵されている、とでも言いたげで、少々自分勝手な話にも聞こえるが、確かにこれまで自分だけが知る秘密の情報だったものをばらされたような悔しい気分になるという、その気持ちもわからないではない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら