テーマパーク化する「鉄道系博物館」の問題点 展示物は娯楽性重視、学芸員は専門知識不足

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鉄道は科学技術の結集体であり、その構造理解のためには機械や電気の工学知識や図面解読のための図学知識も不可欠である。単に年代的な史実の変遷、外観や塗装的な見た目の変化だけでなく、ネジ1本の変更にも技術的な意味は存在する。すべてを語る必要はないが、博物館員はその展示物の内容をきちんと把握して見学者の知識欲に対応できてこそ、社会教育施設として成人も含めた広い世代に対する義務を果たせるのではないだろうか。

自動改札機の仕組みを説明する博物館もある(撮影:尾形文繁)

学芸員は収蔵物に関する保守や維持手法を含めた豊富な知識で見学者に応対するほか、収蔵物の背景等についても新たに研究を継続し、その学術的成果を新たに発表しなければならない。単に磨いて保存しておくだけとか、必要最低限の接客だけするのであるなら、インタープリター(説明員)だけで済む。

科学技術系の博物館においてはその展示内容にふさわしい技術知識の習得をして臨むのが好ましい。理系大学や理系コースに学芸員養成過程を設置するとか、学芸員習得科目に工学的科目を追加するなど、これらの分野の対応可能者を育成してゆくのも科学技術大国である日本の課題でもあろう。

シミュレーターはゲームではない

幼児や年少者だけでなく広く高齢者層まで知識欲求は継続する。その学習ニーズに応えるためにも広い世代に対応できる社会教育体制を博物館が備えるべきである。生涯学習の時代なのだから、専門外の学芸員も新たに大学などに再入学して工学を学ぶとか、いろいろな実務を活字以外からも吸収しなければならない。鉄道会社のインターンシップなどで実学を追加学習するなど、経営側も学芸員の学習や研究活動充実のための配慮をすることも必要でなかろうか。

展示物は極力動くほうがいい。動かして保存できる技術が伝承されることに意味がある。鉄道の保全現場などとの保守連携も重要かつ理想であるし、文章にない経験者の「記憶」の保存も大切である。

リニア・鉄道館では昔のドクターイエローも展示(撮影:今井康一)

運転シミュレーターをゲームと勘違いしている人が多いが、本来は訓練装置である。突然踏切に自動車が侵入してきたとか、雨が降ってきて止まりにくくなるとか、速度を出しすぎると脱線してしまうとか、現実の勤務環境を理解してもらうような体験展示ツールにすべきではないのか。

「博物館類似施設」「博物館相当施設」を含めて博物館は年少者だけでなく、これからの世代を教育して育成させるための「装置」でもある。鉄道を目指したいと願う学生層に敬遠されてしまう施設では情けない。理解を深め、この業界に魅力を感じてもらえるような施設になることが望ましい。

来館者確保のためには、少子高齢化を視野に入れた運営・企画が存続の鍵となる。単なるテーマパークのような施設でなく、機能的な社会教育施設としての役割を果たせる、より魅力ある施設に成長拡大してもらいたいものである。

前橋 栄一 東京交通短期大学講師

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まえばし えいいち / Eiichi Maebashi

鉄道総合技術研究所を経て現職。技術士(機械部門)。博物館学芸員。上級デジタルアーキビスト。

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