テーマパーク化する「鉄道系博物館」の問題点 展示物は娯楽性重視、学芸員は専門知識不足

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博物館の社会教育施設としての役割とはどのようなものか。成人層も含めた広い世代に社会教育を行うのが理想ではあるものの、経営側の知識不足か営業的要求か、こんにちの博物館は幼児、幼年教育ばかりに思考が集中して10代後半以降の世代の知識欲求を満たす役割を果たせておらず、展示物よりも遊具中心でテーマパーク的な味付けになってしまっている傾向が目立つ。ミニトレインのような鉄道系博物館の遊具施設は「としまえん」が同様のものを導入するほど、立派な造りとなっている。

歴代の東海道新幹線がズラリ並ぶ「リニア・鉄道館」(撮影:今井康一)

「キッザニア」に始まる幼児の職業体験的な施設はアミューズメントに分類されるが、なぜか鉄道系の博物館施設の多くも体験型にこだわる。だとしたら、こうした鉄道系の施設は博物館ではなくアミューズメント施設なのではないか。

歴史系博物館や自然科学系博物館では来館者の知識要求レベルはかなり異なる。子供向けの要素を強化して、知識を得たいシニア層やこれから鉄道界に就職したいというような学生の要求を満たせなくなっているのが、現在の多くの鉄道系博物館の実態ではなかろうか。

鉄道系博物館の展示車両などは機械や電気技術の成果である。その外観を見ただけでは学べない。資料は語らないが、それに何かを語らせるのが本来の博物館や学芸員の役目である。

展示物を理解できない学芸員も

近年の展示内容は高価で立派な遊具を除いて動く素材が減り、汽笛の吹鳴ショーや運転シミュレーター体験などゲームセンターやショー的な内容が目立つ。単に観光施設としての集客数にとらわれた運営に陥っていないか。説明員より知識のあるマニアやファン層は敬遠され、子供程度なら扱いやすいからとキッズパーク的な内容整備で自己満足してはいないか。

学芸員が展示物を構造的に理解できていないのも問題だ。学芸員は専門性を要求されるとはいうものの、国内の学校教育プログラムに明確な「鉄道学」があるわけではないので、その分野の専門家がいるとはいえない状況にある。考古学や歴史学、社会学や地理学、自然科学の専門家は多くいる。一方で、鉄道学はあくまで独自にそれを学ぶか、自己の趣味嗜好の知識の範囲で対応する専門外の人材しかいない。

鉄道博物館で人気を集める蒸気機関車(撮影:風間仁一郎)

博物館運営に造詣の深い地理学者で鉄道研究家の青木栄一先生が古くから指摘されている事項に、学芸員育成教育に理工系科目が不足している問題がある。

学校等における文部科学省の博物館学芸員資格の必要要件と取得科目はいまだに文系基礎科目基本の内容だけで構成されている。科学技術を展示解説する場合において、他の考古学や歴史学と異なりその道の専門理解者が対応できていない点も、年少者レベルでの社会教育にしか対応できない悲しい状況を生んでいるのではなかろうか。

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