”逆張り”をされると、消費増税の是非は、衆議院総選挙の争点に浮上する。それでも安倍首相は、解散の大義を貫いて、予定通りの消費増税を覆さずにいられるだろうか。反対に、予定通りの消費増税を撤回すれば、解散の大義は崩れ、朝令暮改から首相の信認はますます落ち、その増収分を充てる子育て支援や教育無償化に期待を寄せた、有権者の支持を失うだろう。とはいえ、”逆張り”されても消費増税を撤回しなければ、消費増税に批判的な有権者の票を失うことになる。
仮に、希望の党の”逆張り”が奏功、選挙後に政権を握ったとしても、茨の道が待っている。消費増税を2度も延期し、国債を増発しても、財政運営に重大な支障をきたしていないのは、日本銀行が異次元緩和政策を実施して、平時では前代未聞の国債の大量購入をしているからだ。
日本銀行はいまや、日本国債の残高の45%も保有する状態となっている。国債金利をほぼゼロできているから、増税せずに国債を増発していても、財政運営に支障をきたさないだけだ。日銀に独立性はあるものの、アベノミクスの第一の矢として実施してきた異次元緩和政策を否定するなら、国債の大量購入は一時的であれ止めなければならない。
社会保障で見えない与野党の違い
消費税の増税を凍結すれば、国債を増発せざるを得ないのに、日銀が今までほどには国債を購入しないとなれば、国債金利は急騰しかねない。アベノミクス批判と消費増税撤回という組み合せは、国債金利の急騰の引き金になるかもしれない。国債金利が急騰すれば、利払費が急増して、増税なき財政運営をするには、苛烈な歳出削減をするしかなくなる。そのとき首相にはまさに省庁横断的な統治能力が問われる。
社会保障については、希望の党から、明確で包括的な具体策がまだ出されていない。当連載の拙稿「都民ファースト勝利で国政はどう変わるのか」でも述べたが、今のところ、自公両党と希望の党にはわかりやすい相違点はなさそうだ。このままいくと、選挙時の争点として、社会保障は置き去りにされるのではないか。
しかし、選挙後の今年末にかけてこそ、社会保障の政策決定にとって重要な局面を迎える時期である。6年に1度の診療報酬・介護報酬の同時改定を2018年度に控え、報酬改定の重大な決断を年末までに行わなければならない。この機を逃すと、団塊世代が75歳以上となる2025年までに、医療と介護に両方またがる形での改革を進めることができない。生活保護制度の生活扶助基準の見直しを行うのも年末となっており、これを素通りしてしまっては国民にとって大事なセーフティネットの綻びが改められなくなる。誰が首相になっても、年末までには、社会保障関連の政策決定で重大な局面を迎える。総選挙で争点化されず置き去りにされてよいのか。
党利党略の”抱きつき”や”逆張り”ではなく、政策方針と整合的な具体策を伴う論議が、総選挙を機に盛り上がることを期待したい。
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