しかし、外銀にも見られることではあるが、現在邦銀が推進しているフィンテック投資の大きな部分が、契約のペーパーレス化やミドル・バック業務の簡略化など自行の利益確保のためのものとなっている。MUFGはフィンテックによる営業増益効果を2000億円程度と見積もっているが、その3分の2は、既存業務の効率化など"守り"の分野である。これらは、経費圧縮で巡り巡って顧客のためにもなるかもしれないが、直接的に顧客の利便性を向上させるものではない。
しかも、中には、手続きがむしろ面倒になっているものもある。ある大手行の住宅ローン申し込みの新たなアプリは、利用者に、事前審査で記入済みの個人情報を再度スマホで入力させ、提出済みの何枚もの確認書類の写真とともに送らせる。2時間以上かけて入力しても、その後、これまでと同じように店舗に出向かなければならない。過渡期ということかもしれないが、今のところ残念なシステムである。
挑戦者は「銀行にうんざりした」人たち
新たな仮想通貨の実証実験も始まっている。導入している銀行では、行内の飲み代の決済が社内メールのように1クリックで送金できる。しかし、 MUFGのMUFGコインやみずほのJコインなど、まだ陣営が分裂しており、共通のプロトコルができていない。互換性の低い複数のシステムが乱立しても、顧客は戸惑ってしまう。
スペインのBBVAが買収した米国のデジタルバンク「Simple」の創業者ジョシュア・ライヒは、「銀行にうんざりした」経験から、より簡便な決済サービスを銀行口座がなくても受けられるようにと思ってSimpleを創設したという 。
新規性の高いシステムを構築しても、「銀行の利益に資する」「当局も推進しているし、他行に遅れるわけにはいかない」などという動機で作られた貧弱なテクノロジーでは顧客はついてこない。どうせやるなら、顧客第一の真の"フィンテック"を目指してほしい。
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