キヤノンに変調 デジタルカメラ国内商戦の熾烈
国内コンパクトデジタルカメラ(コンパクト)商戦で、例年にない動きが起きている。
調査会社BCNによると、春商戦向け新モデルが出始める2月から直近7月の累計で、販売台数シェアは松下電器産業(17・5%)がトップ。僅差だが王者キヤノン(17・3%)を抜いた。
「まさかキヤノンに勝てるとは思っていなかった」(松下電器産業商品企画グループDSCチーム・品田正弘チームリーダー)。松下では今年2月に発売した「FX35」が好調で、シェア拡大の原動力となっている。一方、看板ブランド「IXY」を擁し国内トップシェアを維持してきたキヤノンが、半年にわたり2位以下に沈むのは異例だ。
キヤノンのカメラ事業は、営業利益の3割強を稼ぎ出す屋台骨の一つ。“変調”は別の数字にも表れている。2008年度上半期で自社コンパクトの平均単価は、下落率が前期比10%強と世界市場平均(約10%)を上回った。これを受けて同事業の利益見通しも引き下げた。昨年度に市場価格が10%落ち込む中、5%程度の下落で食い止めたのとは様子が異なる。
もはや製品差別化は限界
キヤノン側も「機能面で松下などに差をつけられているのは事実。デザイン面でも他社がうちをまねてきて差別化ができなくなってきた」(キヤノンマーケティングジャパン・佐々木統常務取締役)と打ち明ける。カメラ映像機器工業会によると、今上半期の国内コンパクト出荷実績は数量ベースで約3%減、金額は約8%減とさらに大きい。市場の成熟化から、差別化も難しくなってきている。
右肩上がりの成長を続けてきた国内のコンパクトだが、05年には伸びがマイナスに転じた。その後、手ぶれ防止や顔認識など各社は新機能を拡充。消費者の購買意欲を刺激し盛り返した。ただ、そうした取り組みも限界に達してきた。「3年前はまだユーザーがデジカメに不満を持っていた。今はアンケートを取ると、皆持っているデジカメで満足しており、新たな製品を必要としていない」(カシオ計算機営業本部QV企画部・小俣肇部長)。
松下をはじめとする家電メーカーは、積極的に新機能の開発を進めてきた。一方でキヤノンの場合、機能強化はカメラの基本性能が中心で、新機能搭載には保守的だった。むしろサッカーの中田英寿氏をイメージキャラクターに起用したブランド戦略、高級感を追求したボディデザインなどで差別化を図ってきた感がある。だが、BCNの道越一郎アナリストは、コンパクトの製品動向を「機能開発競争が飽和状態に達し、各社が力の矛先をデザインに向けつつある」と分析する。つまり、訴求ポイントで、キヤノンと他メーカーの間に明確なすみ分けはなくなってきた。
こうした中、キヤノンの商品展開から変化の意志も垣間見える。今年の春夏モデルでは「IXY」メインラインとして初となる5色のカラーバリエーションを展開。8月の秋冬モデル発表会でも、ホーローのような質感とパステルカラーを特色とした「Power Shot」の新シリーズを披露。シャープなフォルムとモノトーンを基調としてきたこれまでのキヤノンの製品群では文字どおり「異色」だ。新味を出したが「新製品で市場の単価下落に対応しきれるかと言われると、正直断言はできない」(佐々木常務)。
世界全体では新興国のほか、欧米でも依然として2ケタ成長が続くコンパクト市場。だが、同時に起きている激しい単価下落に引きずり込まれると、今後の成長鈍化は避けられない。キヤノンの変調は一過性のものか。いずれにしろ販売競争がさらに熾烈さを増すことは確実だ。
(桑原幸作 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら