地獄島?韓国映画「軍艦島」で広がる波紋 いったいどこまでが事実なのか

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慰安婦問題を象徴する「少女像」に続き、8月12日には韓国のソウルと仁川で「徴用工像」の除幕式があった。なぜ今、徴用工問題が再燃するのか。映画の最後には、こんなメッセージが流れる。

「朝鮮人への強制的な労務があったことを(日本政府は)12月までに報告することを約束しているが、現在それが履行される様子はない」

日本政府が実態調査

軍艦島は2015年に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」(以下、産業遺産)の一つ。登録時、韓国政府は「自国民が強制労働させられた施設がある」と反発。日本政府は「1940年代にいくつかのサイト(資産)において、その意思に反して連れてこられ、厳しい環境の下で働かされた多くの朝鮮半島出身者等がいたこと」「第2次世界大戦中に日本政府としても徴用政策を実施していたこと」を説明戦略に盛り込むとして、正式登録に至った。遺産登録で中心的な役割を担った内閣官房参与の加藤康子さんは「産業遺産の推薦書を作成していたときには、このような事態になるとは予測していなかった」と当惑し、こう続けた。

「今年12月までにユネスコの世界遺産委員会に提出が求められているのは、1850年代から1910年にかけての23資産について全体の歴史を理解できる展示戦略の進捗(しんちょく)報告。『第2次大戦中の戦時徴用者』の実態調査の報告ではありません」

政府は15年から加藤さんを中心に徴用工の実態調査にも取り組んでおり、「過去の文献や新聞記事にはすべて目を通すが、生存者の証言は重要。断られることも多いが、当時炭坑で働いていた日本人、在日韓国人からも多数証言を得ている」。

なかには徴用を担当していた朝鮮総督府の元役人、徴用者と坑内で一緒に作業をしていた元炭鉱マン、徴用者を引率していた人の証言もあるという。

加藤さんは映画のダイジェスト版を作成し、それを生存者に見せながら当時の状況を確認する作業もしている。

「歴史問題に関わりたくないと協力に消極的な生存者が多いなか、映画『軍艦島』に対して正しい記録を残すことを韓国当局に求める声明文を出す生存者も出てきました。残されたわずかな生存者の証言を収集し、後の研究者のためにもアーカイブを残していきたい」(加藤さん)

歴史的な事実を都合よく解釈し、相手の国を罵倒したり、嫌ったりするナショナリズムが燃えさかっている。そうした熱を冷ますには、戦争を知る世代の証言が重要だ。生存者はいずれも高齢で、最高で102歳。時間をかけて聞き取りを繰り返す最中に亡くなる人もいるという。残された時間はあまりない。(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2017年9月25日号

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