食べ物の好き嫌いが多い子に親ができること 大人よりも友だちの影響がはるかに大きい
1931年、インディアナ大学心理学部のウィンスロップ・ケロッグ教授は、グアという名の1匹のチンパンジーを、自分の息子ドナルドとともに育てることにした。チンパンジーを人間として育てたらどうなるのかを知るためだった。はたして、人間と同レベルの知能を持つようになるのだろうか? グアがケロッグ家に到着したとき、ドナルドは10カ月、グアは7カ月半だった。グアは到着直後から人間の赤ちゃんとして扱われた。ケロッグ夫妻はグアに洋服を着せ、当時の赤ちゃんが履いていた固めの靴を履かせた。グアは檻に入れられることも、縄でつながれることもなかった。おまるも使えるようになった。歯も磨いた。食事もドナルドと同じで、同じように昼寝をし、お風呂にも入った。
2人は驚くほど気が合った。彼らはまるできょうだいのように、家具のまわりで追いかけっこをし、大騒ぎをしてはよく笑った。一方が泣けば、他方が慰めるように肩をたたいて抱きしめた。グアがドナルドよりも早く昼寝から目覚めてしまうと、ドナルドの部屋に行かせないようにするのが大変だったという。
ケロッグ夫妻がくすぐったり、手を持ってぐるぐる回したりするとグアはまるで人間の赤ちゃんのように喜んだ。ハグやキスで愛情を表現した。洋服を着せてもらうときは自ら袖に腕を通し、よだれかけを結びやすいようにと頭をちょこんと下げた。何か悪さをして、怒られると「ウーウー」と悲しげな泣き声をあげ、怒った人の腕の中に飛び込み、「お許しを懇願するキス」をしようとした。そしてそのキスを受け入れてもらえると、ほっとため息をつくのだが、それは吐息が聞こえるほど大きなため息だった。
グアは「人間」になっていったが…
博士の期待どおり、グアはこうして「人間」になっていった。予想していなかったのは、ドナルドがチンパンジーのようになってしまったことだ。ドナルドにはグアの悪癖である柱をかむ癖が見られるようになり、チンパンジー語をいくつも覚えた。自分の意思を伝えるのに、ただうなったり、ほえたりするだけで、人間の言葉はほとんど話せなかった。生後19カ月のドナルドが話す英語の単語はわずかに3つ。平均的なアメリカの子どもであれば、19カ月ともなると50以上の単語を発し、2語文を使いはじめる時期だ。この時点で実験は打ち切られ、グアは動物園へと戻っていった。
ドナルドは、親の言葉や振る舞いではなくてチンパンジーのそれを模倣するようになった。これは彼がそのときすでに社会的カテゴリーを認識しはじめていた証しにほかならない。自分とグアが同じ社会的カテゴリーに属していると、正しく知覚していたのだ(幸いなことに、実験中止後のドナルドは平均的な発育ペースを取り戻し、最終的にはハーバード大学医学大学院を卒業したそうだ)。
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